【第18回】排風機の回転数と風量・静圧の関係|ファン法則とインバータ制御の実務
局所排気装置の吸引能力が不足している場合、排風機の回転数を上げれば改善できるのでしょうか。
反対に、排風量に余裕がある場合、インバータで回転数を下げれば電気代を節約できるのでしょうか。
どちらも可能性はあります。しかし、回転数を変更するだけで必ず期待どおりの結果になるわけではありません。
排風機には、回転数と風量・圧力・軸動力の間に成り立つ「ファン法則」と呼ばれる関係があります。
例えば、一定の条件で排風機の回転数を80%にすると、理論上、風量は80%、圧力は64%、軸動力は約51%になります。
この関係だけを見ると、回転数を下げることで大きな省エネルギー効果が得られそうです。
しかし、局所排気装置では、発散源から有害物質を適切に捕捉することが重要です。
回転数を下げすぎると、制御風速や必要排風量が不足し、作業者が有害物質にばく露する危険性が高くなる場合があります。
また、粉じんを扱う装置では、ダクト内の風速低下によって粉じんが堆積する可能性もあります。
この記事では、ファン法則の基本から回転数変更による具体的な計算、インバータの仕組み、実際の運転点、既設設備の改善方法まで解説します。
1. 排風機の回転数を変えると何が変わるのか?
最初に、排風機の役割を確認しましょう。
排風機は、内部の羽根車を回転させることによって空気へエネルギーを与え、ダクト内に空気の流れを形成する機械です。
羽根車の回転数が変わると、空気へ与えられるエネルギーも変化します。
例えば、同じ排風機の羽根車を速く回転させれば、一般に、より大きな風量や圧力を発生させることができます。
反対に、回転数を下げると、風量や圧力が小さくなります。
ただし、これらの数値は同じ割合で変化するわけではありません。
回転数によって変化する3つのもの
| 項目 | 意味 | 回転数との基本的な関係 |
|---|---|---|
| 風量 | 1分間に運ぶ空気の体積 | 回転数の1乗 |
| 圧力 | 排風機が発生する圧力 | 回転数の2乗 |
| 軸動力 | 羽根車を回すための動力 | 回転数の3乗 |
これは、同じ排風機で相似な運転状態を比較する際の基本的な関係です。
この法則を理解すると、回転数を変更したときの風量・圧力・軸動力を概算できます。

2. ファン法則とは?3つの基本式を理解する
ファン法則は、排風機の回転数を変更したときに、風量・圧力・軸動力がどのように変化するかを表す関係です。
「ファンの相似則」とも呼ばれます。
同じ排風機について、変更前の回転数をN1、変更後の回転数をN2とします。
① 風量は回転数に比例する
Q2 = Q1 × (N2/N1)
- Q1:変更前の風量(m³/min)
- Q2:変更後の風量(m³/min)
- N1:変更前の回転数(min⁻¹)
- N2:変更後の回転数(min⁻¹)
例えば、回転数を2倍にすると、相似条件では風量も2倍になります。
回転数を80%にすると、風量も80%になります。
② 圧力は回転数の二乗に比例する
P2 = P1 × (N2/N1)²
ここでPは、同じ定義によるファンの圧力を表します。
例えば、ファン静圧を比較する場合には、変更前も変更後もファン静圧を使用します。
回転数を2倍にすると、
2² = 4
なので、圧力は4倍になります。
一方、回転数を80%にすると、
0.8² = 0.64
となり、圧力は64%になります。
③ 軸動力は回転数の三乗に比例する
W2 = W1 × (N2/N1)³
- W1:変更前の軸動力(kW)
- W2:変更後の軸動力(kW)
例えば、回転数を2倍にすると、
2³ = 8
なので、軸動力は8倍になります。
反対に80%にすると、
0.8³ = 0.512
なので、軸動力は約51%になります。
3つの法則を比較する
| 回転数の割合 | 風量の割合 | 圧力の割合 | 軸動力の割合 |
|---|---|---|---|
| 50% | 50% | 25% | 12.5% |
| 80% | 80% | 64% | 51.2% |
| 90% | 90% | 81% | 72.9% |
| 100% | 100% | 100% | 100% |
| 110% | 110% | 121% | 133.1% |
この表から、回転数の変化に対して軸動力が大きく変化することが分かります。
ただし、これはあくまでファン法則による理論的な比較です。
実際の電力消費量や風量は、ファン効率、モーター効率、インバータの損失、系統の抵抗特性などによって変わる場合があります。
3. ファン法則が成立する条件を理解する
ここは、経験者にも重要な部分です。
ファン法則は便利ですが、すべての条件で無条件に成立するわけではありません。
基本的な前提は、同じ羽根車を使用し、空気密度などの条件が変わらず、相似な運転状態を比較することです。
同じファンの対応する運転点を比較する
例えば、ある回転数の性能曲線上にある運転点を考えます。
回転数を変更すると、ファン性能曲線そのものが変化します。
元の性能曲線上の各点から、ファン法則を使って新しい曲線上の対応点を求めることができます。
しかし、実際の設備がその対応点で運転するかどうかは、接続されたダクト系統の抵抗によって決まります。
系統抵抗が変わらなければ計算しやすい
ダクト系統の抵抗が、ほぼ風量の二乗に比例する場合を考えます。
例えば、
P = K × Q²
という関係です。
このとき、Kが一定で、ファンも相似条件で運転していれば、回転数の変更に対応して運転点がほぼ相似に移動します。
そのため、風量は回転数に比例するという関係を実際の運転点へ近似的に適用できます。
どのような場合に誤差が大きくなるのか?
例えば、次のような場合です。
- フィルターの目詰まり状態が変化する
- ダンパーの開度が変化する
- 複数の枝ダクトで流量配分が変わる
- 給気条件や室内の圧力が変化する
- ファン効率が大きく変化する
- 回転数を大きく変更して、運転状態が相似から外れる
そのため、実際の設備ではファン性能曲線と系統抵抗曲線を照合して、運転点を確認する必要があります。
4. 計算例①|排風機の回転数を80%に下げる
ここからは、第17回の計算例を使います。
変更前の条件
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 排風量Q1 | 12.0 m³/min |
| 排風機静圧P1 | 304.05 Pa |
| 軸動力W1 | 0.12162 kW |
| 回転数N1 | 1,500 min⁻¹(仮定) |
※回転数1,500 min⁻¹は今回追加した説明用の条件です。第17回で実在する排風機を選定したという意味ではありません。
ここでは、回転数を80%に下げます。
N2 = 1,500 × 0.8
N2 = 1,200 min⁻¹
となります。
ステップ① 風量を計算する
Q2 = Q1 × (N2/N1)
Q2 = 12.0 × (1,200/1,500)
Q2 = 9.60 m³/min
となります。
つまり、風量は12.0 m³/minから9.60 m³/minへ減少します。
ステップ② 排風機静圧を計算する
P2 = P1 × (N2/N1)²
P2 = 304.05 × 0.8²
P2 = 304.05 × 0.64
P2 ≒ 194.59 Pa
となります。
ステップ③ 軸動力を計算する
W2 = W1 × (N2/N1)³
W2 = 0.12162 × 0.8³
W2 = 0.12162 × 0.512
W2 ≒ 0.06227 kW
となります。
Wへ換算すると、
W2 ≒ 62.27 W
です。
結果を比較する
| 項目 | 変更前 | 変更後 |
|---|---|---|
| 回転数 | 1,500 min⁻¹ | 1,200 min⁻¹ |
| 排風量 | 12.00 m³/min | 9.60 m³/min |
| 排風機静圧 | 304.05 Pa | 194.59 Pa |
| 軸動力 | 121.62 W | 62.27 W |
今回の計算では、回転数を20%下げると、軸動力は約48.8%減少しました。
ただし、これは機械的な軸動力についての計算結果であり、電気使用量が必ず48.8%減少することを意味しません。
また、前回の12.0 m³/minが必要排風量であれば、9.60 m³/minへの減少によって必要な性能を確保できなくなる可能性があります。

5. 計算例②|回転数を110%に上げる
次に、排風量が不足している設備を想定し、回転数を110%にした場合を計算します。
変更前の条件は、先ほどと同じです。
ステップ① 回転数
N2 = 1,500 × 1.10
N2 = 1,650 min⁻¹
です。
ステップ② 風量
Q2 = 12.0 × 1.10
Q2 = 13.20 m³/min
です。
ステップ③ 排風機静圧
P2 = 304.05 × 1.10²
P2 = 304.05 × 1.21
P2 ≒ 367.90 Pa
です。
ステップ④ 軸動力
W2 = 0.12162 × 1.10³
W2 = 0.12162 × 1.331
W2 ≒ 0.16187 kW
です。
計算結果
| 項目 | 変更前 | 変更後 |
|---|---|---|
| 回転数 | 1,500 min⁻¹ | 1,650 min⁻¹ |
| 排風量 | 12.00 m³/min | 13.20 m³/min |
| 排風機静圧 | 304.05 Pa | 367.90 Pa |
| 軸動力 | 0.12162 kW | 約0.16187 kW |
今回の計算では、回転数を10%上げると軸動力は約33%増加します。
これは、回転数を増やす際に、電動機の過負荷へ注意しなければならない理由の一つです。
回転数は自由に上げてもよいのか?
いいえ。
ファンには、許容回転数や機械的強度に関する制限があります。
回転数を上げると、羽根車や軸、軸受などに作用する負荷が変化し、騒音や振動も増える場合があります。
また、電動機の負荷が増加して過電流や過熱が生じる可能性もあります。
そのため、回転数を変更する際には、メーカーが定める使用範囲を確認する必要があります。
6. ファン性能曲線は回転数によってどう変わる?
ここまでの計算では、回転数を変更すると、風量・圧力・軸動力がそれぞれ変化することを説明しました。
次に、その変化をグラフで考えてみましょう。
ファン性能曲線とは?
ファン性能曲線は、排風機の風量と発生圧力の関係を示す曲線です。
一般的には、横軸に風量、縦軸に静圧または全圧を取ります。
ここでは、排風機静圧を縦軸にした場合を考えます。
回転数を下げる場合
同じ排風機で回転数を下げると、ファン性能曲線は全体として低風量・低圧力側へ移動します。
その結果、同じダクト系統に接続されている場合、一般には運転点も低風量側へ移動します。
回転数を上げる場合
回転数を上げると、ファン性能曲線は高風量・高圧力側へ移動します。
そのため、設備の抵抗条件が許せば、より大きな排風量を得られる場合があります。
ただし、性能曲線が単純に上へ平行移動するわけではありません。
ファン法則では、対応する点の風量が回転数比、圧力が回転数比の二乗で変化します。
より専門的な表現
変更前のファン静圧曲線を、
P1 = F1(Q)
と表します。
回転数比を、
r = N2/N1
とすると、相似則に基づく変更後の曲線は、
F2(Q) = r² × F1(Q/r)
と表すことができます。
この式は、元の性能曲線を回転数に対応させて換算する方法です。
実際の運転点は、この変更後のファン性能曲線と系統抵抗曲線の交点になります。

7. インバータ制御とは?なぜ回転数を変更できるのか?
ここからは、実際の設備で回転数を変更する方法を解説します。
インバータとは、電動機に供給する電力の周波数などを制御し、電動機の回転速度を調整する装置です。
局所排気装置では、インバータによって排風機の回転数を変更し、排風量を調整する場合があります。
交流電動機と周波数の関係
一般的な交流誘導電動機では、電源周波数が回転速度に関係しています。
同期速度Nsは、
Ns = 120f ÷ p
で表されます。
- Ns:同期速度(min⁻¹)
- f:周波数(Hz)
- p:モーターの極数
例えば、4極モーターを50 Hzで使用する場合、
Ns = 120 × 50 ÷ 4
Ns = 1,500 min⁻¹
となります。
インバータで40 Hzにすると?
同じ4極モーターで40 Hzを供給した場合、
Ns = 120 × 40 ÷ 4
Ns = 1,200 min⁻¹
となります。
このように、周波数を変えることで回転速度を調整できます。
同期速度と実際の回転数は同じなのか?
誘導電動機では、一般に同期速度と実際の回転速度は一致しません。
これは、回転子に「すべり」が生じるためです。
そのため、50 Hzを40 Hzへ変更しても、実際の回転数が必ず正確に80%になるとは限りません。
ファン法則を使って設備の実際の性能を予測する場合には、インバータの周波数設定値ではなく、可能な限りファン軸の実際の回転数を確認することが重要です。
8. インバータ制御とダンパー制御の違い
排風量を調整する方法には、インバータ制御のほかにダンパーを使用する方法があります。
ダンパー制御
ダンパーとは、ダクト内部の開度を変えて、空気の流れに対する抵抗を調整する装置です。
例えば、ダンパーを絞ると、流路抵抗が増加します。
その結果、排風量が減少することがあります。
ただし、排風機の回転数はそのままなので、ダンパー部分で追加の圧力損失が生じます。
インバータ制御
一方、インバータ制御では、排風機の回転数を変更することで排風量を調整します。
回転数を下げると、ファンが発生する圧力や軸動力も小さくなるため、ダンパーだけで風量を絞る場合よりも省エネルギーになる可能性があります。
2つの方法を比較する
| 比較項目 | ダンパー制御 | インバータ制御 |
|---|---|---|
| 基本原理 | 流路抵抗を変える | ファン回転数を変える |
| 風量調整 | 可能 | 可能 |
| ファン回転数 | 原則一定 | 可変 |
| 圧力損失 | 絞ることで追加抵抗が発生 | 回転数低下により必要圧力を低減できる場合がある |
| 省エネ効果 | 条件による | 大きな効果が得られる場合がある |
| 留意点 | 堆積、調整状態、追加損失 | 最低周波数、電動機、捕捉性能、搬送速度 |
なお、インバータ制御があらゆる運転条件で必ず最も効率的になるわけではありません。
インバータ自身にも損失があり、ファンやモーターの効率も運転点によって変化します。
また、インバータを設置しただけで自動的に適切な省エネルギー運転が実現するわけではありません。

9. 回転数を下げると制御風速はどうなる?
ここは、局所排気装置の管理で特に重要な部分です。
局所排気装置は、有害物質を適切に捕捉するために必要な気流を形成する装置です。
そのため、省エネルギーを目的として排風量を下げる場合でも、必要な捕捉性能を確保しなければなりません。
囲い式フードの場合
例えば、ドラフトチャンバーの前面開口部を考えます。
有機溶剤中毒予防規則第16条第1項の原則が適用される囲い式フードでは、制御風速は開口面の最小風速で評価します。
同規則の原則値は0.4 m/sです。
ここで、あるドラフトチャンバーの開口面最小風速が0.50 m/sだったとします。
回転数を80%に下げた際に、開口面の気流分布が変わらず、各位置の風速もほぼ80%になると仮定すると、
0.50 × 0.80
0.40 m/s
となります。
ただし、これは計算上の仮定です。
実際には気流分布が変化する場合があるため、最小風速が正確に0.40 m/sになるとは限りません。
また、測定誤差や運転条件の変動もあります。
そのため、計算値がちょうど法定の原則値になっただけで、十分な性能が確保されていると判断するのは適切ではありません。
外付け式フードの場合
例えば、側方吸引型の外付け式フードを考えます。
対象となる有機溶剤業務で同規則第16条第1項の原則値が適用される場合、制御風速は0.5 m/sです。
外付け式フードでは、有機溶剤蒸気を吸引しようとする範囲内で、開口面から最も離れた作業位置の風速を確認します。
回転数を下げると、フードから離れた位置の吸引風速も低下する可能性があります。
その結果、作業者の手元や洗浄容器付近で必要な風速が得られなくなるおそれがあります。
回転数を下げる前に確認すること
回転数を変更する前には、必要な制御風速などの性能要件と、現在の運転状態を確認する必要があります。
特に、作業者が実際に作業している位置と、法令上の測定位置を確認することが重要です。

10. 粉じんを扱う局所排気装置では搬送速度に注意する
回転数の変更は、フードの捕捉性能だけでなく、ダクト内部の搬送条件にも影響します。
特に粉じんを含む空気を運ぶ設備では注意が必要です。
同じダクト径なら、風量が下がると風速も下がる
ダクト内の平均風速Vは、
V = Q ÷ (60 × A)
で求められます。
例えば、内径150 mmのダクトに12 m³/minの空気が流れている場合、平均風速は約11.32 m/sです。
回転数を80%に下げることで、排風量が9.60 m³/minになったと仮定します。
この場合、ダクト内平均風速は、
V = 9.60 ÷ (60 × 0.01767)
V ≒ 9.05 m/s
となります。
| 項目 | 変更前 | 変更後 |
|---|---|---|
| 排風量 | 12.0 m³/min | 9.6 m³/min |
| ダクト内径 | 150 mm | 150 mm |
| 平均風速 | 11.32 m/s | 約9.05 m/s |
ここで重要なのは、この9.05 m/sという風速が、対象粉じんに対して適切な搬送速度であるかどうかです。
必要な搬送速度を下回ると、ダクト内に粉じんが堆積する可能性があります。
堆積すると何が起こるのか?
例えば、ダクトの曲がり部や水平部分に粉じんが堆積すると、圧力損失が増加したり、ダクトの有効断面積が小さくなったりすることがあります。
その結果、フードの吸引能力がさらに低下する可能性があります。
また、可燃性粉じんの場合には、堆積物の火災・爆発危険性も考慮する必要があります。
そのため、粉じんを扱う設備では、フードの制御風速だけでなく、ダクト内部の搬送速度も確認することが重要です。
11. 2本の枝ダクトがある場合、回転数を下げるとどうなる?
第16回では、2台のフードを1台の排風機で吸引する設備を紹介しました。
今回も同じ構成を考えます。
作業場所Aと作業場所Bで発生した有害物質を、それぞれフードA・Bで吸引します。
吸引した空気は、枝ダクトA・Bを通って合流し、主管を通過して排風機へ向かいます。
変更前の流量
- フードA:7.2 m³/min
- フードB:4.8 m³/min
- 合計:12.0 m³/min
ここで、排風機の回転数を80%に下げた場合を考えます。
流量配分が変わらず、各枝の流量も80%になると仮定すると、
フードAは、
7.2 × 0.8 = 5.76 m³/min
フードBは、
4.8 × 0.8 = 3.84 m³/min
となります。
| フード | 変更前 | 変更後の仮定値 |
|---|---|---|
| A | 7.20 m³/min | 5.76 m³/min |
| B | 4.80 m³/min | 3.84 m³/min |
| 合計 | 12.00 m³/min | 9.60 m³/min |
ただし、実際の枝ダクトでは、抵抗やダンパーの開度、合流部の流れなどによって流量配分が変わる場合があります。
そのため、各枝が必ず同じ割合で減少するとは限りません。
フードAだけを測定してよいのか?
適切ではありません。
例えば、フードAでは必要な制御風速が得られていても、フードBでは不足している可能性があります。
そのため、複数のフードを接続している設備では、各フードの性能確認が必要です。
また、一つのフードを閉じた場合には、ほかの枝の流量や圧力条件が変化する場合があります。
省エネルギー制御を行う際には、同時使用するフードの条件も考慮する必要があります。
12. インバータの最低周波数はどのように決めるのか?
例えば、インバータの運転周波数を50 Hzから40 Hzへ変更できる設備を考えます。
この場合、40 Hzで必要な制御風速が確保されていれば、それより低い周波数にしてもよいのでしょうか。
そのようには判断できません。
最低周波数は設備の条件によって変わる
まず、必要な性能を確認します。
例えば、有機溶剤を扱う設備であれば、対象業務に適用される制御風速などの要求事項を確認します。
次に、使用するフードの種類と作業条件を確認します。
そのうえで、複数の周波数における実際の性能を測定し、必要な能力を確保できる最低の運転条件を検討します。
最低周波数の設定で確認したいこと
- すべての必要なフードで、所定の性能を確保できるか
- 粉じんなどの搬送速度が不足しないか
- 電動機が低速で連続運転できるか
- 排風機が安定して運転できるか
- 空気清浄装置の圧力損失が変化しても対応できるか
- 周波数設定を誤って変更されない仕組みがあるか
- インバータ異常時に危険な状態が生じないか
下限設定だけで安全を保証できるのか?
保証できません。
例えば、設計時には40 Hzで必要な制御風速を確保できていても、その後、フィルターが目詰まりすると排風量が低下する可能性があります。
そのため、必要に応じて圧力や風量の監視、点検、設定管理などを組み合わせることが重要です。
13. インバータによる省エネルギー効果をどう評価するか?
ここまで、回転数を下げると軸動力が減少することを説明しました。
ただし、軸動力の減少割合と、電力使用量の減少割合は同じとは限りません。
軸動力と消費電力の違い
軸動力とは、ファン軸へ供給する機械的な動力です。
一方、消費電力は、モーターやインバータが電源から受け取る電力です。
これらの間には、モーター効率やインバータ損失などが関係します。
そのため、ファン法則で軸動力が50%になったとしても、実際の消費電力が必ず50%になるわけではありません。
理論上の軸動力低減率
例えば、回転数を80%にした場合には、
0.8³ = 0.512
なので、軸動力は約51.2%になります。
これは、約48.8%の軸動力低減に相当します。
しかし、実際の省エネルギー効果を評価する場合には、運転前後の入力電力と運転時間を確認する必要があります。
電力量の計算方法
消費電力量Eは、電力Pと運転時間tから求められます。
E = P × t
- E:電力量(kWh)
- P:平均消費電力(kW)
- t:運転時間(h)
例えば、実測した平均消費電力が変更前2.0 kW、変更後1.2 kWだったとします。
1日8時間、年間250日運転する場合、
年間運転時間は、
8 × 250 = 2,000時間
です。
変更前の年間電力量は、
2.0 × 2,000 = 4,000 kWh
変更後は、
1.2 × 2,000 = 2,400 kWh
です。
したがって、
年間削減電力量 = 1,600 kWh
となります。
※ここで使用した2.0 kWと1.2 kWは、電力計で測定した入力電力を想定した説明用の仮定値であり、前述のファン軸動力の計算値ではありません。
省エネルギー効果より優先すべき条件
局所排気装置の場合、省エネルギー効果が得られたとしても、必要な捕捉性能が確保されなくなれば適切な改善とはいえません。
そのため、性能を確保したうえで、不要な風量を減らすことが基本です。
14. インバータ制御で注意したい電動機と排風機の問題
インバータを設置すれば、すべての排風機を自由に回転数制御できるわけではありません。
電動機と排風機の仕様を確認する必要があります。
① 低速運転時の冷却性能
一般的な自己冷却型の電動機では、回転数が下がることで冷却用ファンの風量も低下します。
そのため、低速で長時間運転する場合には、電動機の温度上昇へ注意が必要です。
ただし、低速運転できる範囲は電動機の仕様によって異なります。
② 高速運転時の機械的強度
回転数を上げる場合には、ファンの羽根車、軸、軸受などの許容条件を確認する必要があります。
過大な回転数で運転すると、振動や騒音、機械的損傷の危険性が高くなる場合があります。
③ インバータと電動機の適合性
インバータの容量や制御方式、電動機の絶縁性能、ケーブル長、電気的ノイズなどを確認する必要があります。
④ 共振や異常振動
特定の回転数で、設備の固有振動数と運転による振動が近づき、共振が発生する場合があります。
そのような場合には、該当する回転数での運転を避けるなど、設備条件に応じた対策を検討します。
⑤ 危険場所で使用する場合
可燃性ガスや引火性蒸気などが存在し、爆発危険場所に該当する場合には、電動機やインバータ等の設置場所、電気機器の防爆構造、適合性などを確認する必要があります。
一般用のインバータや電動機を、危険場所へ無条件に設置してよいわけではありません。
また、インバータ制御への変更が、既存の防爆性能や機器の適合条件に影響しないかも確認する必要があります。
15. 実務例|吸引能力が不足した局所排気装置を改善する
ここでは、架空の化学工場を想定します。
作業台に設置された外付け式フードで有機溶剤蒸気を吸引しています。
しかし、最近になって、発散源付近で十分な吸引気流が得られなくなりました。
最初に排風機の回転数を上げるべきか?
すぐに回転数を上げることは推奨しません。
まず、吸引能力が不足した原因を調べる必要があります。
例えば、次のような原因が考えられます。
- フードと発散源の距離が大きくなった
- フード周囲の空調気流が変化した
- ダンパーが閉まり気味になっている
- ダクト内部に堆積物や閉塞がある
- 空気清浄装置の圧力損失が増加した
- 排風機や駆動装置に異常がある
このような問題を確認せずに回転数を上げても、根本的な改善につながらない場合があります。
ステップ① 正常時の運転条件を調べる
最初に、設備の設計資料や過去の点検記録を確認します。
例えば、必要排風量、制御風速、排風機回転数、ダクト静圧、電動機電流などです。
ステップ② 現在の性能を測定する
実際の作業条件で、必要な制御風速や排風量などを確認します。
ステップ③ 原因を特定する
例えば、フィルターの目詰まりが原因であれば、適切な清掃や交換を行います。
フードと発散源の距離が大きいのであれば、フード配置の改善を検討します。
ステップ④ 回転数変更の必要性を判断する
設備の抵抗や配置を改善しても必要な性能が得られず、回転数変更が適切と判断される場合には、メーカーの性能資料などを用いて検討します。
この際、ファン法則による概算だけでなく、ファン性能曲線と系統抵抗曲線を確認します。
ステップ⑤ 回転数変更後の性能を確認する
実際に回転数を変更した場合には、変更後の風量、制御風速、電流、振動などを確認します。
必要な性能を確保でき、機械的・電気的な使用条件に問題がないことを確認する必要があります。

16. 作業の有無に応じたインバータ制御は可能か?
局所排気装置は、作業状況によって必要な排風量が変化する場合があります。
例えば、設備を停止していて有害物質の発散がないときと、有機溶剤を使用している作業中では、必要な換気条件が異なる可能性があります。
このため、作業状態に応じて排風機の回転数を変更する制御方法が考えられます。
自動制御を導入するときの注意点
例えば、作業開始と同時に回転数を上げる方式では、必要な吸引性能が確保される前に有害物質が発散するおそれがあります。
そのため、作業開始前に必要な風量へ到達したことを確認する仕組みなどを検討します。
また、装置の停止後も発散が続く場合には、直ちに排風機の回転数を下げることが適切ではない場合があります。
このような場合には、作業終了後の残留物質や発散状況も考慮する必要があります。
風量の確認方法
例えば、ダクト静圧を利用して運転状態を監視する方法があります。
ただし、静圧が一定であることだけで、必要な捕捉性能が確保されているとは限りません。
特に複数のフードを接続している設備では、枝ダクトの流量配分が変化する可能性があります。
そのため、監視する圧力と実際の風量・制御風速との関係を確認し、必要に応じて複数の測定値を使用することが重要です。
17. 法令上、インバータ制御はどのように扱われているのか?
ここでは、日本の法令上の要求事項と、技術的な推奨事項を区別します。
有機溶剤中毒予防規則第16条
同条では、対象となる局所排気装置について、フード形式に応じた制御風速を確保できる能力が規定されています。
原則となる値は次のとおりです。
| フード形式 | 制御風速 |
|---|---|
| 囲い式フード | 0.4 m/s |
| 外付け式・側方吸引型 | 0.5 m/s |
| 外付け式・下方吸引型 | 0.5 m/s |
| 外付け式・上方吸引型 | 1.0 m/s |
なお、同条第2項には一定の例外規定があります。
制御風速の定義や測定位置についても、同条の備考などを確認する必要があります。
有機溶剤中毒予防規則第18条
第18条では、局所排気装置を設けた場合、労働者が有機溶剤業務に従事する間、原則として第16条第1項に規定する所定の制御風速以上で局所排気装置を稼働させることが規定されています。
したがって、インバータ制御で回転数を変更する場合にも、作業中に必要な制御風速などの要求事項を満たす必要があります。
インバータ自体の検査
厚生労働省の「局所排気装置の定期自主検査指針」では、インバータの検査方法についても説明されています。
例えば、手動設定の場合には周波数を変更する操作、自動設定の場合には自動運転を行い、周波数が円滑に変化することなどを確認する内容が示されています。
ただし、インバータが正常に動作することと、フードで必要な制御風速が得られていることは別の問題です。
どちらも目的に応じた確認が必要です。
法令と実務上の改善提案を区別する
ファン法則を用いて回転数を計算することや、省エネルギーを目的としてインバータを導入することは、一般的な工学的手法です。
これらを、すべての局所排気装置に対する法的義務として扱うものではありません。
また、法令上の性能要件を満たしていても、作業環境や発散状況によっては、追加のばく露低減対策が必要となる場合があります。
18. 経験者が注意したい8つのポイント
① ファン法則は適用条件を確認する
回転数の変更後に、実際の運転点がどこへ移動するかは系統抵抗によって決まります。
② 周波数設定値と実際の回転数を混同しない
誘導電動機にはすべりがあるため、周波数と回転数は完全には一致しません。
③ 軸動力の低減率を電力量の低減率として扱わない
インバータ損失やモーター効率などを考慮する必要があります。
④ 最低周波数は捕捉性能を確認して設定する
制御風速などの要求事項と、実際の作業条件を確認する必要があります。
⑤ 粉じんの搬送速度を確認する
回転数低下によって粉じんが堆積しやすくなる場合があります。
⑥ 複数フードの流量配分を確認する
合計排風量だけでは、各フードの性能を判断できません。
⑦ 回転数を上げる場合は機械・電気条件を確認する
電動機の過負荷、ファンの許容回転数、振動、騒音などを確認します。
⑧ インバータ異常時の安全対策を検討する
インバータが停止したり、回転数が意図せず低下したりした場合、必要な吸引性能を確保できなくなる可能性があります。
そのため、必要に応じて警報、作業設備との連動、異常時の停止手順などを検討することが重要です。
19. インバータ制御・回転数変更のチェックリスト
| 分類 | 確認項目 | 確認内容 |
|---|---|---|
| 法令 | 適用される性能要件 | 制御風速、抑制濃度など |
| 現状 | 必要排風量 | m³/min |
| 現状 | 現在の回転数 | min⁻¹ |
| 現状 | 現在の周波数 | Hz |
| 現状 | 排風機静圧・全圧 | Pa |
| 現状 | 各フードの性能 | 所定位置の風速等 |
| 設計 | 変更予定回転数 | min⁻¹ |
| 設計 | ファン法則による予測 | 風量、圧力、軸動力 |
| 設計 | 性能曲線 | 新しい運転点 |
| ダクト | 搬送速度 | 粉じん堆積のおそれ |
| 排風機 | 許容回転数 | メーカー仕様 |
| 電動機 | 定格電流 | A |
| 電動機 | 低速連続運転 | 冷却性能など |
| インバータ | 設定可能周波数 | Hz |
| インバータ | 下限・上限設定 | 設定根拠と管理方法 |
| 保護 | 異常時の動作 | 警報、停止、連動 |
| 測定 | 変更後の実測風量 | m³/min |
| 測定 | 変更後の制御風速 | m/s |
| 測定 | 振動・騒音・電流 | 異常の有無 |
| 維持管理 | 設定値の記録 | 点検・再調整への活用 |
この表は、設計と維持管理における実務上の確認事項を整理したものであり、すべての項目が一律に法的義務となるわけではありません。
よくある質問
Q1. 排風機の回転数を20%下げると、風量も20%下がりますか?
同じ排風機で相似な運転条件が成立し、系統抵抗の条件が変化しなければ、ファン法則によってそのように近似できます。
ただし、実際の設備では、系統抵抗の変化などによって結果が異なる場合があります。
Q2. 回転数を20%下げると、電気代も約49%下がりますか?
必ずしもそうではありません。
軸動力は理論上約49%減少しますが、実際の消費電力にはモーターやインバータの効率なども関係します。
Q3. インバータを取り付ければ、どの排風機でも回転数を変えられますか?
いいえ。
電動機とインバータの適合性、排風機の許容回転数などを確認する必要があります。
Q4. 回転数を上げれば、必ず制御風速を改善できますか?
必ずしもそうではありません。
例えば、フードの位置や形状が不適切な場合、排風量を増やしても有害物質を十分に捕捉できないことがあります。
Q5. インバータの最低周波数は何Hzにすればよいですか?
一律の値はありません。
必要な捕捉性能、搬送速度、電動機の使用条件などを確認し、設備ごとに設定する必要があります。
Q6. 複数のフードを接続した局所排気装置でも、インバータ制御できますか?
可能な場合があります。
ただし、各枝ダクトの流量配分や、同時使用するフードの条件を考慮する必要があります。
Q7. 既設局所排気装置の省エネルギー対策では何を優先すべきですか?
最初に、不要な排風量を減らすことができないか検討します。
例えば、フードと発散源の距離の見直し、適切な囲い込み、外乱気流の低減などです。
そのうえで、必要な捕捉性能を確保できる範囲で、インバータ制御などを検討することが合理的です。
まとめ|ファン法則は回転数変更の予測に役立つが、性能確認が不可欠
ファン法則では、排風機の回転数と風量・圧力・軸動力の間に、次の関係があります。
- 風量は回転数に比例する。
- 圧力は回転数の二乗に比例する。
- 軸動力は回転数の三乗に比例する。
これらを理解することで、回転数の変更による性能の変化を概算できます。
また、インバータ制御を使用すれば、排風機の回転数を調整し、必要な風量へ近づけられる場合があります。
しかし、局所排気装置では、単に回転数を下げて電力量を削減することが目的ではありません。
最も重要なのは、有害物質を適切に捕捉し、作業者のばく露を低減することです。
そのため、回転数を変更する際には、必要な制御風速などの法令上の性能要件、ダクト内の搬送条件、排風機・電動機の仕様などを確認する必要があります。
ファン法則は回転数変更の結果を予測するための計算手法であり、実際の局所排気装置が安全に運転できることを保証するものではありません。
最終的には、変更後の運転点を確認し、実際の作業条件で必要な性能が確保されていることを測定・評価する必要があります。
次回は、局所排気装置の完成時にどのような性能確認を行うべきかを取り上げます。制御風速、風量、静圧、気流の可視化などを組み合わせ、設計値と実測値をどのように比較するか解説します。
主な参考資料
- 『やさしい作業環境改善技術』第15章「排風機(ファン)の選定」、第18章「工事完成時の点検と性能が出ない場合の対策」
- e-Gov法令検索「有機溶剤中毒予防規則」第16条・第18条
- 厚生労働省「局所排気装置の定期自主検査指針」等の周知等について
- 米国エネルギー省「Continuous Energy Improvement in Motor Driven Systems」
- 三菱電機FA「サイクル運転モード、連続運転モード、トルク特性選択」
- 産業医科大学の研究情報「局所排気装置の外付け式フード使用時の制御風速と排風量の関係」
※提供PDFは、回転数を変更してファン能力を調整する考え方を説明した資料です。インバータによる制御方法、電動機の使用条件、省エネルギー評価などについては、追加の技術資料に基づいて補足しています。
※本記事の回転数、風量、圧力、軸動力の数値は、学習用の仮定条件による計算例です。実在する排風機や局所排気装置の性能を示すものではありません。


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