複数の作業場所から有害物質を吸引するとき、1台の排風機に複数のフードを接続することがあります。
このとき、局所排気装置の設計で特に間違えやすいのが、
「枝ダクトの風量はどう足すのか」
「圧力損失も枝ごとに全部足すのか」
「合流後のダクト径をどう決めるのか」
という点です。
結論からいうと、合流後の風量は枝の風量を足しますが、並列に存在する枝ダクトの圧力損失をそのまま足すわけではありません。
分岐ダクトでは、各フードに必要な風量を確保しながら、枝ごとの圧力バランスを成立させる必要があります。
厚生労働省の局所排気装置摘要書でも、排気系統図、排風量、装置全体の圧力損失と計算方法などを記載する構成になっており、風量と圧力損失を系統として整理することが設計上重要であることが分かります。厚生労働省

💡 最初に押さえる結論
分岐ダクトでは、
風量は合流したら足す
枝の圧力損失は単純に足さない
抵抗の大きい経路を基準に、各枝の風量をバランスさせる
という3点が基本です。
分岐ダクトでは「風量」と「圧力損失」を分けて考える
まず、風量と圧力損失は別々に考えます。
Aフードから10m³/min、Bフードから15m³/min吸引するとします。
合流後の共通ダクトを流れる風量は、
10 + 15 = 25m³/min
です。
これは、定常状態で漏れなどを無視すれば、合流する空気量が保存されるためです。
一方、A枝の圧力損失が200Pa、B枝が350Paだった場合、
200 + 350 = 550Pa
としてはいけません。
A枝とB枝は、同じ空気が200Pa区間を通ったあと350Pa区間を通る「直列」ではなく、別々のフードから同じ合流点へ向かう並列の経路だからです。

なぜ枝ダクトの圧力損失を足さないのか
簡単な例で考えます。
説明用の仮定条件です。
A枝:
- 必要風量:10m³/min
- フードから合流点までの圧力損失:200Pa
B枝:
- 必要風量:15m³/min
- フードから合流点までの圧力損失:350Pa
合流後の共通部分:
- 必要風量:25m³/min
- 合流点から排風機・排出口側までの圧力損失:450Pa
この例では、合流部そのものの局部損失などは、すでに各区間の値に含まれているものと仮定します。
Aフードから共通部分を通る経路は、
200 + 450 = 650Pa
です。
Bフードからの経路は、
350 + 450 = 800Pa
です。
したがって、
200 + 350 + 450 = 1,000Pa
とはしません。
基準になるのは、設計風量を流したときにより大きな圧力を必要とする経路です。
今回ならB系統の約800Paです。
実際のファン選定では、さらに空気清浄装置、排気口、継手など、設計対象となるすべての損失を含め、必要風量時のファン性能と照合します。
分岐ダクトでは風量バランスが重要
ここで別の問題が出てきます。
A枝は200Pa、B枝は350Paです。
同じ合流点につながっているのに、A枝の方が抵抗が小さいため、何も調整しなければA側へ空気が流れやすく、B側の風量が不足する可能性があります。
海外の公的技術資料である米国CDC/NIOSH系の換気資料では、分岐系統では各枝へ必要風量を適切に配分する「バランシング」が必要であり、合流点へ入る枝の圧力条件を整える考え方が示されています。これは日本の法的要求そのものではなく、分岐ダクト設計の技術的参考です。CDC Stacks
今回の単純化した例なら、
350 − 200 = 150Pa
なので、設計風量時にA枝へ約150Pa相当の追加抵抗を与えれば、
A枝:約350Pa
B枝:約350Pa
となり、風量を合わせやすくなります。
ただし、実設備では「150Paになるまでダンパーを閉めれば終わり」ではありません。
ダンパーを動かせばA枝の風量も変わり、系統全体の運転点も影響を受けます。
したがって、最終的には実際の各枝風量やフード性能を測定しながら調整することが重要です。
ダンパーは風量バランスの調整に使う
抵抗の小さい枝に流量調整用ダンパーを設け、開度を調整して風量を合わせる方法があります。
CDCの技術資料でも、各枝に調整可能な絞りを設けて風量をバランスさせる方法が示されています。CDC Stacks
日本でも、厚生労働省の「局所排気装置の定期自主検査指針」では、流量調整用ダンパーが局所排気装置の性能を保持するよう調整した開度で固定されていることを確認する考え方が示されています。厚生労働省
つまりダンパーは、
「風量が多すぎる枝に必要な抵抗を加え、各枝の風量を調整する部品」
として使うことができます。
ただし、必要以上にダンパーを絞れば圧力損失が増えます。
設計段階からダクト径や経路を適切に決め、ダンパーだけで大きな不均衡を無理に調整しなくて済む構成にすることが重要です。
合流後の共通ダクトでは風量を合計する
分岐ダクトで非常に重要なのが、共通ダクトです。
A枝10m³/min、B枝15m³/minなら、合流後は、
25m³/min
が流れます。
共通ダクトを15m³/minだけで設計すると、実際に25m³/min流れたときに想定より風速が高くなります。
風速が高くなると速度圧が増え、直管やエルボなどの圧力損失も増えます。
その結果、ファンの運転点が変化し、各フードで必要な風量を確保できない可能性があります。
厚生労働省の化学物質管理者講習テキストでも、ダクトの圧力損失が大きくなると排風機の風量が低下し、想定した制御風速が得られない場合があるため、適切なダクト設計と排風機選定が重要とされています。厚生労働省
必要風量から共通ダクト径を求める
では、共通ダクト径を計算してみます。
説明用の仮定条件です。
必要風量:
25m³/min
この区間の設計上の平均風速を、
10m/s
と仮定します。
この10m/sは法定値ではなく、計算方法を説明するための仮定値です。
まず風量をm³/sへ換算します。
Q = 25 ÷ 60
= 0.4167m³/s
必要断面積Aは、
A = Q ÷ V
なので、
A = 0.4167 ÷ 10
= 0.04167m²
丸ダクトの面積は、
A = π × D² ÷ 4
です。
したがって、
D = √{4A ÷ π}
= √{4 × 0.04167 ÷ 3.1416}
≒ 0.230m
つまり、計算上必要な内径は約230mmとなります。

計算径230mmが出ても、そのまま決定しない
計算結果が230mmになったからといって、そこで設計完了ではありません。
実際に採用するダクト径を決めたら、その径で風速と圧力損失を再計算します。
説明用として、採用候補を、
225mm
250mm
の2種類と仮定します。
225mmの場合
断面積は、
A = π × 0.225² ÷ 4
≒ 0.0398m²
風速は、
V = 0.4167 ÷ 0.0398
≒ 10.5m/s
です。
250mmの場合
断面積は、
A = π × 0.250² ÷ 4
≒ 0.0491m²
風速は、
V = 0.4167 ÷ 0.0491
≒ 8.5m/s
となります。
225mmは目標とした10m/sに近く、250mmは風速が低くなります。
しかし、風速だけでダクト径を決めることはできません。
圧力損失も比較する必要があります。
225mmと250mmでは圧力損失がどれだけ違うか
説明用に次の条件を仮定します。
- ダクト長さ:20m
- 空気密度:1.20kg/m³
- 管摩擦係数 λ:0.02
- エルボ:2個
- 各エルボの局部損失係数 ζ:0.4
これらのλ、ζは説明用の仮定値であり、実設備の設計値ではありません。
直管損失は、
ΔP = λ × (L ÷ D) × Pv
局部損失は、
ΔP = ζ × Pv
として計算します。
225mmでは風速約10.5m/s、速度圧は約65.9Paです。
直管損失は約117Pa、エルボ2個は約52.7Paとなり、
合計:約170Pa
です。
250mmでは風速約8.5m/s、速度圧は約43.2Paです。
直管損失は約69.2Pa、エルボ2個は約34.6Paとなり、
合計:約104Pa
です。
したがって今回の仮定条件では、
約66Paの差
があります。
225mmの損失は250mmのおよそ、
170 ÷ 104 ≒ 1.6倍
です。

これは、
「目標風速に近いから225mmが必ず正解」
ではないことを示しています。
250mmでも対象物質の搬送や設備条件に問題がなく、必要な性能を確保できるのであれば、圧力損失を小さくできる可能性があります。
一方、搬送する物質によっては、風速を下げすぎることでダクト内堆積などの問題が生じる場合もあります。
そのため、ダクト径は風量・風速・圧力損失・対象物質・施工条件をまとめて判断します。
合流部そのものにも圧力損失がある
初学者が忘れやすいのが、枝ダクトが合流する部分です。
A枝とB枝をつなげれば、それだけで損失がゼロになるわけではありません。
流れの向きや速度が異なる空気が合流するため、合流継手にも局部圧力損失が生じます。
また、枝管を急な角度で接続したり、合流直後に急激な拡大・縮小を設けたりすると、乱れが大きくなり、圧力損失が増えやすくなります。
CDCの技術資料でも、枝管の接続や急激な断面変化は乱れと摩擦を増やすため、滑らかな合流形状が重要と説明されています。CDC Stacks
したがって実際の計算では、
枝ダクト直管損失
エルボ等の局部損失
合流継手の損失
共通ダクト損失
を区間ごとに整理します。
法令上もダクトを短く、ベンドを少なくする考え方がある
有機溶剤中毒予防規則第14条では、局所排気装置のダクトについて、長さをできるだけ短くし、ベンドの数をできるだけ少なくすることが定められています。厚生労働省
特定化学物質障害予防規則でも、ダクトをできるだけ短くし、ベンドを少なくすることなどが規定されています。厚生労働省
特化則の施行通達では、その理由として、ダクトが長くなったりベンドが増えたりすると圧力損失が増え、より大きな能力のファンが必要になることが説明されています。厚生労働省
これは、法令上の構造要求と、流体力学上の圧力損失の考え方がつながる部分です。
実務で分岐ダクトを設計するときの確認順序
分岐ダクト設計では、いきなりダクト径を決めるのではなく、次の順序で考えると整理しやすくなります。
- 各フードで必要な風量を決める
- 各枝ダクトの風量を整理する
- 合流後の風量を合算する
- 各区間のダクト径と風速を仮決定する
- 各枝の直管・エルボ・合流部などの圧力損失を計算する
- 抵抗の大きい経路を確認する
- 抵抗の小さい枝との風量バランスを検討する
- 共通ダクトの圧力損失を計算する
- 必要風量・必要圧力を基にファンを選定する
- 試運転時に各フードの性能を実測し、必要に応じて調整する
計算上成立していても、実際の施工状態やダンパー開度によって風量配分は変化します。
したがって、設計計算と試運転確認は別々に必要です。
よくある間違い
最も多いのは、
A枝200Pa + B枝350Pa + 共通450Pa = 1,000Pa
とする考え方です。
A枝とB枝は並列なので、枝同士の損失は単純加算しません。
また、
「抵抗の小さいA枝だから問題ない」
とも限りません。
抵抗が小さいことでA側に必要以上の風量が流れ、B側の風量不足につながる場合があります。
さらに、
「共通ダクトは一番大きい枝の風量で設計すればよい」
という考え方も誤りです。
合流後は、原則として同時に流れる枝の風量を合計して考える必要があります。
まとめ
局所排気装置の分岐ダクト設計で最も重要なのは、
風量と圧力損失を混同しないこと
です。
合流後の風量は、
Q共通 = QA + QB
のように合算します。
一方、枝ダクトの圧力損失は、
A枝損失 + B枝損失
とはしません。
各フードから共通系統までの経路ごとに圧力損失を求め、必要圧力の大きい経路を基準に、各枝の風量バランスを成立させます。
また、共通ダクト径は必要風量と仮定した風速から計算したあと、実際に採用する径で風速と圧力損失を再計算することが重要です。
分岐ダクトが理解できると、次に必要になるのが、
「必要風量と必要圧力から、どのようにファンを選ぶのか」
というファン選定です。
📚 主な参考資料
厚生労働省「局所排気装置摘要書(様式第25号)」
排気系統、排風量、装置全体の圧力損失、計算方法などの設計事項を確認しました。厚生労働省
厚生労働省「化学物質管理者講習テキスト 第7章 リスクアセスメント(リスク低減対策)」
ダクトの圧力損失と排風機風量、ダクトを短くし曲がりを減らす設計の考え方を確認しました。厚生労働省
厚生労働省「有機溶剤中毒予防規則」第14条
局所排気装置のダクトをできるだけ短くし、ベンドを少なくする要求を確認しました。厚生労働省
厚生労働省「特定化学物質障害予防規則」および施行通達
ダクト構造と圧力損失増大の関係を確認しました。厚生労働省
CDC/NIOSH関連資料「Balancing the System」
分岐系統の風量バランス、枝管の圧力調整、調整用ゲートの技術的考え方を参考にしました。日本法上の要求ではなく、技術的参考資料として使用しています。CDC Stacks


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