「排風機は動いているのに、うまく吸っていない気がする」「風速を測ったが、この数値でよいのか分からない」。局所排気装置を管理するときは、こうした疑問が生じます。
局所排気装置は、発散源付近で有害物質を含む空気を取り込み、作業者が有害物質を吸い込むことによるばく露(吸入ばく露)を減らす設備です。性能を考えるには、機器の運転状態に加えて、フードの形・位置、空気の流れ、作業者の動きを確認する必要があります。
この記事では、有機溶剤などの蒸気・ガスを扱う現場を中心に、装置の仕組み、風量と風速の違い、フードの役割、性能確認の基本を解説します。具体的な排風機選定や圧力損失計算の前に押さえたい基礎です。
局所排気装置は、発散源付近で有害物質を捕捉する設備
有害物質が作業場の空気中へ出てくる場所を「発散源」といいます。溶剤の小分け作業なら、開いた容器の液面や注ぎ口などが確認対象です。
その付近で有害物質を含む空気を取り込むことを、ここでは「捕捉」と呼びます。局所排気装置は、発散源を囲ったり、近くに吸い込み口を設けたりして捕捉します。
部屋全体の空気を入れ替える全体換気に対し、局所排気では発散源付近に対策を集中させます。まず考えたいのは、「どこから発散し、どのような経路で作業者の鼻や口へ届くのか」です。
なお、局所排気の検討前にも、対象物質の代替や密閉移送など、発散そのものを減らせる方法がないか確認します。これは対策選択の考え方であり、個別の法令が要求する設備を任意に省略してよいという意味ではありません。
フード・ダクト・排風機は、それぞれ役割が違う
装置を調べるときは、発散源から排出口まで空気の通り道をたどります。主な構成要素は次のとおりです。
| 構成要素 | 主な役割 |
|---|---|
| フード | 有害物質を含む空気を取り込む入口 |
| ダクト | 取り込んだ空気を運ぶ通路 |
| 空気清浄装置・排ガス処理装置 | 対象物質に応じて、排気中の有害物質を除去・低減する装置 |
| 排風機 | 系統に空気を流すための圧力差を生み出す機器 |
| 排出口 | 系統の空気を外へ排出する出口 |
処理装置の要否・方式や機器の配置は、対象物質、設備条件、適用法令によって検討します。すべての局所排気装置が同じ構成になるわけではありません。

設備管理では、機器ごとに「何を確認できるか」を分けると整理しやすくなります。例えば、排風機の回転確認で分かるのは運転状態の一部です。各フードの風量や、作業中の捕捉まで確認したことにはなりません。
排気に見合う給気も考える
室内から排出する空気を補う空気の供給が「給気」です。給気の不足や位置の不適切さは、フード周囲の気流や排気性能に影響します。
扉を開けると吸い込みが変わる場合は、給気不足を原因候補の一つとして調べます。ただし、扉の開放は横風も変えるため、それだけで原因を確定しないことが大切です。
風量は空気の量、風速は空気の速さ
「吸い込みが弱い」という言葉だけでは、何を測るべきか決まりません。まず風量と風速を区別します。
| 用語 | 意味 | 主な単位 |
|---|---|---|
| 風量 | 単位時間に通過する空気の体積 | m³/s、m³/min |
| 風速 | ある位置での空気の流れる速さ | m/s |
開口面を通る風量は、次の関係で計算できます。
Q=A×V̄
- Q:その開口面を通過する風量[m³/s]
- A:開口面積[m²]
- V̄:開口面に垂直な風速の面積平均[m/s]
この式は、同じ面を通る空気の体積と速さの関係です。風速にむらがあるとき、中央の一点の値をそのまま平均風速として使うことはできません。測定結果から見積もる場合は、開口面を代表する位置で測り、面積を考慮して平均を求めます。
開口面積0.20 m²、平均風速0.50 m/sの場合
Q=0.20×0.50=0.10 m³/s
1分は60秒なので、
0.10×60=6.0 m³/min
となります。計算に使う0.50 m/sは演習用の設定値であり、あらゆるフードの法定基準や十分な捕捉を保証する値ではありません。
開口面積を2倍にするとどうなるか
排風量を6.0 m³/minに保ち、開口面積だけを0.40 m²へ広げた場合を考えます。
V̄=(6.0÷60)÷0.40=0.25 m/s
一方、広げた開口面で平均風速0.50 m/sを維持するには、
Q=0.40×0.50×60=12 m³/min
が必要です。
| 条件 | 開口面積 | 風量 | 平均風速 |
|---|---|---|---|
| 変更前 | 0.20 m² | 6.0 m³/min | 0.50 m/s |
| 風量を保って開口を拡大 | 0.40 m² | 6.0 m³/min | 0.25 m/s |
| 平均風速を維持 | 0.40 m² | 12 m³/min | 0.50 m/s |

これは風量一定などの条件を置いた計算です。実設備では開口の変更によって抵抗や運転点も変わり得るため、変更後の風量を測定して確認します。また、計算で12 m³/minと出ても、それだけで排風機の機種は選べません。ダクトや処理装置を含む系統の抵抗を検討する必要があります。
フードの形と位置で、捕捉のしやすさが変わる
フード選定では、発散源と作業の両方を見ます。作業がしにくいために囲いを外したり、指定位置から離れて作業したりすれば、設計条件が崩れてしまいます。
囲い式と外付け式を区別する
囲い式は、発散源の周囲を囲い、必要な開口を残して内部を排気する方式です。外付け式は、発散源の外側にフードを置き、吸い込み気流によって捕捉する方式です。
囲い式でも、内部で溶剤の蒸気が発生しなくなるわけではありません。「発散した有害物質を作業場へ広げずに排気する」と理解すると正確です。
実務上は、必要な作業性を確保できるなら、発散源をどこまで囲えるかを先に検討するとよいでしょう。容器の出し入れ、清掃、異常時対応まで含め、普段の作業で維持できる形にします。
外付け式では、発散源との距離が重要
外付け式フードでは、開口面から離れると吸い込み風速が急速に低下します。排風量を変えずに発散源だけを遠ざけた場合、低下するのは発散源位置の風速であり、排風量そのものではありません。
距離の影響を説明するときに使われる「距離の2乗に反比例」という関係も、条件付きの近似です。フードの形・大きさなどを無視して、すべての距離に適用できる設計則とは扱いません。
日本の法的要求事項として、有機溶剤中毒予防規則第14条は、同則第2章に基づいて設ける局所排気装置の外付け式フードを、発散源にできるだけ近づけることなどを定めています。有機則第14条
発散源の風速に、フードの開口面積を掛けない
開口面積0.40 m²の外付け式フードで、離れた発散源の位置に0.50 m/sを確保したい場合、「0.40×0.50×60」で必要排風量は求められません。
面積は開口面、風速は離れた発散源という、異なる場所の量を組み合わせているためです。必要排風量は、フード形式、距離、発散状況などに対応した方法で検討します。

平均風速と、法令上の制御風速は同じではない
風量計算に使う平均風速を、そのまま法令上の適否判定へ使わないことが重要です。ここでは有機則の囲い式フードを例にします。
日本の法的要求事項:有機則第16条第1項では、囲い式フードの制御風速を開口面の最小風速とし、0.4 m/sを定めています。同表は、装置のすべてのフードを開放した場合の制御風速を対象としています。有機則第16条
| 確認する目的 | 使用する風速 |
|---|---|
| 開口面を通る風量の計算 | 開口面に垂直な風速の面積平均 |
| 有機則第16条第1項の囲い式フードの判定 | 開口面の最小風速 |
例えば、平均風速0.55 m/s、最小風速0.30 m/sなら、平均が高くても同項の基準に適合しません。これは同項が適用され、例外・特例がない場合の説明です。第16条第2項や第18条の3などの扱いは、対象設備に応じて確認します。
また、化学物質を扱うからといって、すべて同じ制御風速や抑制濃度で判定するわけではありません。特化則の性能告示には、対象に応じて濃度又は制御風速による要件があります。昭和50年労働省告示第75号

現場では、数値と実際の作業を組み合わせて確認する
性能確認では、何を測ったかだけでなく、どの状態で測ったかを記録します。HSEの試運転・性能確認のガイドも、風量・圧力などの測定と観察を組み合わせています。以下は、その考え方も踏まえた実務上の提案です。
作業者の顔が、有害物質の通り道にないか
発散源からフードへ向かう気流の途中に鼻や口があれば、作業者が有害物質を吸い込むおそれがあります。最終的にフードへ入ることと、途中で作業者がばく露しないことは別です。
設備担当者と作業者で、小分け、容器の交換、液面の確認などの動作を確認します。通常位置だけでなく、前かがみになる場面や、顔を囲いの中へ入れる場面がないかを見ます。

風速が低い部分と、その原因候補を対応させる
中央の風速が高く、端だけ低い場合は、直ちに排風機の能力不足と断定せず、次を調べます。
| 確認対象 | 具体的な確認方法 |
|---|---|
| 開口部 | サッシの位置・開口寸法を設計条件と照合する |
| 容器・資材 | 低風速部分の奥で、空気の通り道をふさいでいないか見る |
| 内部の吸込口 | スリットや吸込口に閉塞・付着物がないか調べる |
| 整流板・バッフル板 | 図面と照合し、変形・位置変更・すき間の閉塞を確認する |
| 周囲の気流 | 空調や扇風機の風、扉の開閉との関係を確認する |
整流板とは、気流の分布などを調整するための板です。有無だけで設備の良否は決まりません。構造と測定結果から必要性を検討します。
説明用の仮想事例として、右下の風速が低く、その奥の吸込口を保管容器がふさいでいた場合を考えます。安全に作業を止めて容器を移し、同じ条件で再測定すれば、配置の影響を調べられます。改善しなければ、吸込口や内部流路など、別の原因候補を確認します。
作業に必要な機器も気流を妨げる可能性があるため、空の状態だけで良好とせず、実作業時の配置でも確認します。内部点検や調整には、必要な設備停止、残留物処理、誤起動防止などを伴わせます。
記録を残し、変更後の有効性を確かめる
記録には、測定位置、各測定値、開口寸法、他のフードの使用状態、給気・空調条件、内部配置を残すと、後日の比較に役立ちます。
配置変更や清掃などは、実行条件を確認し、可能な範囲で一つずつ変更します。構造変更は設計者・メーカーと検討し、変更後の風量・風速分布に加え、捕捉状況や他の系統への影響を再確認します。
機器の性能確認、法定の作業環境測定、個人ばく露の評価は、目的と方法を区別します。風速が確保できたことだけで、必要な濃度測定や評価を省略できるとは判断しません。

まとめ:発散源・気流・作業者を一緒に見る
局所排気装置を理解する出発点は、発散源から排出口までをたどり、どこで有害物質を捕捉するかを考えることです。
風量は単位時間に通過する空気の体積、風速は流れる速さです。風量計算には平均風速を使いますが、有機則の囲い式フードの制御風速では最小風速を確認します。外付け式フードでは、開口面だけでなく発散源との距離が重要です。
現場では、まず対象作業の発散源、フード、作業者の位置を簡単な図に描いてみてください。そこへ運転条件と測定結果を書き込むと、追加で調べるべき箇所が明確になります。
📚 主な参考資料
法令・資料の確認日:2026年9月21日
- 厚生労働省「有機溶剤中毒予防規則」第14条、第16条、第18条の3。日本の法的要求事項の確認に使用。
- 厚生労働省「特定化学物質障害予防規則の規定に基づく厚生労働大臣が定める性能」(昭和50年労働省告示第75号)。性能要件の方式の確認に使用。
- 英国HSE「Controlling airborne contaminants at work: A guide to local exhaust ventilation(HSG258)」第3版、2017年。第2章、第6章、第7章。装置構成・フード・給気等の技術的参考資料。
- 英国HSE「LEV calculations」。風速・面積・風量及び単位換算の参考資料。
- 英国HSE「Commission your local exhaust ventilation(LEV)system」。運転条件の記録、測定と観察による性能確認の参考資料。
※この記事は一般的な情報提供を目的とし、個別設備の設計・法令適合・安全性の判定を代替するものではありません。実際の対応では、対象物質、作業条件、適用法令、設備仕様及び測定結果を確認してください。海外資料の技術情報は参考として紹介しており、日本の法的義務を示すものではありません。


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