局所排気装置の抑制濃度と制御風速の違い|告示第75号の対象物質と確認方法

特定化学物質を扱う局所排気装置について、「ガスや蒸気なら0.5m/sの風速があればよい」と考えていないでしょうか。

実際には、特定化学物質障害予防規則(以下「特化則」)に関係する局所排気装置の性能は、対象物質によって**「抑制濃度」と「制御風速」**という異なる考え方で判断します。

昭和50年労働省告示第75号では、第1号に該当する局所排気装置は主に抑制濃度、第2号に該当する局所排気装置は制御風速によって性能が定められています。したがって、物質の状態がガス状であるという理由だけで「0.5m/s」と判断することはできません。(厚生労働省)

この記事では、抑制濃度と制御風速の違い、告示第75号の対象物質、測定時の考え方、設計・維持管理での使い分けを初めて学ぶ人にも分かるように整理します。

💡 最初に押さえる結論
特化則に関係する局所排気装置では、まず使用物質と適用関係を確認します。告示第75号第1号に該当する場合は、物質ごとに定められた抑制濃度が性能基準になります。第2号に該当する場合は、ガス状0.5m/s、粒子状1.0m/sの制御風速が性能基準になります。(厚生労働省)

目次

抑制濃度と制御風速は何が違うのか

両者の一番大きな違いは、局所排気装置の性能を濃度で確認するか、風速で確認するかです。

項目抑制濃度制御風速
何を確認するか有害物質の濃度吸込み気流の風速
告示第75号主に第1号第2号
基準物質ごとに異なるガス状0.5m/s、粒子状1.0m/s
単位の例ppm、mg/m³、本/cm³m/s
基本的な考え方有害物質がフード外へ漏れ出す状態を濃度で確認有害物質を捕捉するために必要な気流を風速で確認

厚生労働省の「作業環境管理専門家の指導用マニュアル」でも、局所排気装置の性能要件には制御風速方式と抑制濃度方式の2つがあり、特化則では規制物質の一部が制御風速方式、多くが抑制濃度方式であると整理されています。

告示第75号は何を定めているのか

特化則第7条第1項では、対象となる局所排気装置について、フード、ダクト、ファン、排気口などの構造要件に加えて、**「厚生労働大臣が定める性能を有すること」**を求めています。(厚生労働省)

その具体的な性能を定めているのが、

「特定化学物質障害予防規則の規定に基づく厚生労働大臣が定める性能(昭和50年労働省告示第75号)」

です。(厚生労働省)

告示第75号では、対象となる局所排気装置を第1号と第2号に分け、それぞれ異なる性能基準を定めています。

告示第75号第1号|抑制濃度とは

抑制濃度方式では、局所排気装置を作動させたとき、フードの外側における対象物質の濃度が、告示で定められた値を超えないことが性能要件です。(厚生労働省)

厚生労働省の「局所排気装置の定期自主検査指針」では、抑制濃度について、発生源付近の有害物質濃度を一定値以下に抑えることで、作業者のばく露濃度を安全水準に保つことを意図した濃度と説明しています。(厚生労働省)

ここで注意したいのは、抑制濃度を**「作業者の呼吸域の濃度」そのものと考えないこと**です。

定期自主検査指針では、囲い式フード、側方吸引型、上方吸引型、下方吸引型など、フードの形式に応じて濃度の測定点が示されています。小型フードで作業位置が一定の場合など、作業者の呼吸位置が測定点設定に関係するものもありますが、「常に呼吸域で測る」という規定ではありません。(厚生労働省)

告示第75号第1号の抑制濃度一覧

以下は、告示第75号第1号の表に抑制濃度が掲げられている46物質です。

告示原文では、リフラクトリーセラミックファイバーを除き、25℃・1気圧の空気1m³中に占める重量又は容積で規定されています。容積のcm³/m³は数値上ppmと同じため、この表では読みやすさを考慮してppmを併記・表記しています。(厚生労働省)

第1号一覧 1~23

No.物質抑制濃度
1塩素化ビフェニル(PCB)0.01 mg/m³
2ベリリウム及びその化合物ベリリウムとして0.001 mg/m³
3ベンゾトリクロリド0.05 ppm
4アクリルアミド0.1 mg/m³
5アクリロニトリル2 ppm
6アルキル水銀化合物(アルキル基がメチル基又はエチル基であるもの)水銀として0.01 mg/m³
7エチレンイミン0.05 ppm
8エチレンオキシド1.8 mg/m³又は1 ppm
9塩化ビニル2 ppm
10塩素0.5 ppm
11オルト-トルイジン1 ppm
12オルト-フタロジニトリル0.01 mg/m³
13カドミウム及びその化合物カドミウムとして0.05 mg/m³
14クロム酸及びその塩クロムとして0.05 mg/m³
15五酸化バナジウムバナジウムとして0.03 mg/m³
16コバルト及びその無機化合物コバルトとして0.02 mg/m³
17コールタールベンゼン可溶性成分として0.2 mg/m³
18酸化プロピレン2 ppm
19三酸化二アンチモンアンチモンとして0.1 mg/m³
20シアン化カリウムシアンとして3 mg/m³
21シアン化水素3 ppm
22シアン化ナトリウムシアンとして3 mg/m³
233,3′-ジクロロ-4,4′-ジアミノジフェニルメタン0.005 mg/m³

第1号一覧 24~46

No.物質抑制濃度
241,4-ジクロロ-2-ブテン0.005 ppm
25ジメチル-2,2-ジクロロビニルホスフェイト(DDVP)0.1 mg/m³
261,1-ジメチルヒドラジン0.01 ppm
27臭化メチル1 ppm
28重クロム酸及びその塩クロムとして0.05 mg/m³
29水銀及びその無機化合物(硫化水銀を除く)水銀として0.025 mg/m³
30トリレンジイソシアネート0.005 ppm
31ナフタレン10 ppm
32ニッケル化合物(ニッケルカルボニルを除き、粉状のものに限る)ニッケルとして0.1 mg/m³
33ニッケルカルボニル0.007 mg/m³又は0.001 ppm
34ニトログリコール0.05 ppm
35パラ-ニトロクロルベンゼン0.6 mg/m³
36ひ素及びその化合物(アルシン及びひ化ガリウムを除く)ひ素として0.003 mg/m³
37弗化水素0.5 ppm
38ベータ-プロピオラクトン0.5 ppm
39ベンゼン1 ppm
40ペンタクロルフェノール(PCP)及びそのナトリウム塩ペンタクロルフェノールとして0.5 mg/m³
41ホルムアルデヒド0.1 ppm
42マンガン及びその化合物マンガンとして0.05 mg/m³
43沃化メチル2 ppm
44リフラクトリーセラミックファイバー0.3本/cm³※
45硫化水素1 ppm
46硫酸ジメチル0.1 ppm

※リフラクトリーセラミックファイバーは、1気圧の空気1cm³当たりに占める長さ5μm以上の繊維の数として規定されています。(厚生労働省)

⚠️ 注意

この46物質の名称だけを見て、適用の有無を最終判断してはいけません。

告示第75号は、労働安全衛生法施行令別表第三や特化則別表第一を引用して対象を定めており、対象物質を含む製剤その他の物も関係します。実務では、SDSの物質名・含有率を確認したうえで、施行令、特化則、告示を順に照合する必要があります。(厚生労働省)

告示第75号第2号|制御風速とは

告示第75号第2号では、対象となる局所排気装置について、物の状態に応じて次の制御風速を出し得ることが求められています。(厚生労働省)

物の状態制御風速
ガス状0.5 m/s
粒子状1.0 m/s

ここで重要なのは、

「特定化学物質がガス状だから0.5m/s」ではない

という点です。

0.5m/sが告示上の性能基準になるのは、告示第75号第2号の対象となる局所排気装置で、その物がガス状の場合です。

告示第75号第2号の対象物質

告示第75号第2号は、施行令別表第三の番号を引用して対象を指定しています。現在の物質名に対応させると、次の11物質になります。厚生労働省の作業環境管理専門家向けマニュアルでも、特化則の規制物質の一部である11物質が制御風速方式であると整理されています。(厚生労働省)

区分対象物質
第一類物質ジクロルベンジジン及びその塩
第一類物質アルファ-ナフチルアミン及びその塩
第一類物質オルト-トリジン及びその塩
第一類物質ジアニシジン及びその塩
第二類物質インジウム化合物
第二類物質オーラミン
第二類物質クロロメチルメチルエーテル
第二類物質パラ-ジメチルアミノアゾベンゼン
第二類物質マゼンタ
告示で直接列挙1,3-ブタジエン
告示で直接列挙硫酸ジエチル

この表についても、製剤その他の物や含有率を含めた最終的な適用判断は、告示本文、施行令別表第三、特化則別表第一を確認してください。

制御風速はどこで測るのか

制御風速は、フードの開口面ならどこでも測ればよいわけではありません。

告示第75号第2号では、すべてのフードを開放した状態で、フード形式に応じて次の位置の風速を制御風速としています。(厚生労働省)

フード形式制御風速を確認する位置
囲い式フード・ブース式フード開口面における最小風速
外付け式フード・レシーバー式フード吸引しようとする範囲内で、フード開口面から最も離れた作業位置の風速

囲い式フードでは「平均風速が基準値以上」ではなく、開口面の最小風速で判定する点に注意が必要です。

また、厚生労働省の定期自主検査指針では、囲い式フードの制御風速を測定するとき、開口面を等面積かつ一辺0.5m以下となるように原則16以上の部分に分け、それぞれの中心で測定する方法が示されています。開口面が著しく小さい場合は2以上とされています。これは告示第75号そのものに「16点」と規定されているのではなく、定期自主検査指針が示す具体的な検査方法です。(厚生労働省)

抑制濃度方式でも風速・風量の設計は必要

「抑制濃度方式なら、完成後に濃度だけ測ればよく、設計段階では風速を考えなくてもよい」という理解も適切ではありません。

抑制濃度は濃度の値なので、

抑制濃度1ppmだから必要排風量は○m³/min

というように、抑制濃度から直接、局所排気装置の必要排風量やダクト径、排風機能力を計算することはできません。

厚生労働省の「作業環境管理専門家の指導用マニュアル」でも、抑制濃度から直接排風量を計算してダクト径やファンを決めることはできないため、抑制濃度を満たすための制御風速に相当する吸引風速を設定して設計する必要があると説明されています。吸引風速を仮設定するときは、有機則や特化則の制御風速、粉じん則の制御風速などを参考にするとされています。

ここは法令上の性能基準と設計上の考え方を分けることが重要です。

⚖️ 日本の法的要求事項

告示第75号第1号の対象では、完成した局所排気装置が所定の抑制濃度を満たす性能を有することが求められます。(厚生労働省)

🛠️ 実務上の設計

設計段階では、発散源、作業方法、フードの形式、発散源との距離、妨害気流などを踏まえ、捕捉に必要な吸引風速と排風量を設定します。

したがって、「第1号だから0.5m/s」「抑制濃度方式だから風速は不要」というどちらの考え方も避ける必要があります。

設置後・維持管理では何を確認するのか

特化則第30条では、対象となる局所排気装置について、1年以内ごとに1回、定期自主検査を行うことを求めており、検査事項には「吸気及び排気の能力」が含まれています。(厚生労働省)

定期自主検査指針では、制御風速方式の局所排気装置は、告示等で定められた制御風速以上であることを確認します。

一方、抑制濃度方式の局所排気装置では、局排を作動させ、フード形式に応じた所定位置で有害物質濃度を測定し、告示第75号第1号の値を超えないことを確認します。(厚生労働省)

さらに実務上重要なのが、適合していたときの風速を残しておくことです。

定期自主検査指針では、過去に抑制濃度の検査で適合しており、そのとき所定位置の風速を測定している局所排気装置について、その後の検査で、その風速が過去に測定した風速以上であることを確認する方法が示されています。(厚生労働省)

たとえば、抑制濃度を満たしたときの吸引風速が0.63m/sだった場合、この0.63m/sは告示第75号第1号による一律の法定制御風速ではありません。しかし、その設備が良好な状態であったときの基準となる値として維持管理に活用できます。

抑制濃度と管理濃度は別のもの

「濃度」という言葉が共通するため、特に混同しやすいのが抑制濃度と管理濃度です。

項目抑制濃度管理濃度
主な目的局所排気装置の性能確認作業環境測定結果の評価
主な対象発散源・フード周辺単位作業場所
根拠の例告示第75号第1号作業環境評価基準
結果の使い方局排の吸気・排気能力等の確認第1~第3管理区分の決定

作業環境評価基準では、作業環境測定結果を管理濃度と比較し、単位作業場所を第1管理区分から第3管理区分までに区分します。管理濃度は、局所排気装置そのものの性能基準である抑制濃度とは目的が異なります。(厚生労働省)

そのため、

「作業環境測定が第1管理区分だから、局排も抑制濃度を満たしている」

とは直接判断できません。

反対に、

「局排が抑制濃度を満たしているから、作業場は必ず第1管理区分になる」

ともいえません。

また、作業者が実際にどの程度ばく露しているかを評価する個人ばく露の考え方とも、局所排気装置の抑制濃度による性能確認は目的が異なります。

実務ではどの順番で確認するのか

局所排気装置を新設・改造するときは、最初から「0.5m/s」という数字を当てはめるのではなく、次の順序で確認すると整理しやすくなります。

順番確認すること主な目的
1SDSで物質名・含有率・状態を確認何を扱っているか特定する
2労働安全衛生法施行令・特化則を確認特化則の適用関係を確認する
3告示第75号を確認第1号か第2号か判断する
4第1号なら抑制濃度、第2号なら制御風速を確認法令上の性能基準を把握する
5発散源、作業方法、フード形式・位置を決める捕捉方法を決める
6必要排風量、ダクト、圧力損失、排風機等を設計必要な設備性能を具体化する
7設置後に実際の性能を確認設計どおり捕捉できているか確認する
8定期自主検査と日常管理へつなげる性能低下を早期に把握する

特に重要なのは、法令上の性能基準と設計計算を同じものとして扱わないことです。

抑制濃度は局排の性能を最終的に確認する重要な基準ですが、その数値だけからダクト径や排風機を選定することはできません。

よくある誤解

誤解正しい考え方
特化物なら0.5m/sあればよい告示第75号第1号か第2号かを先に確認する
ガス状なら必ず0.5m/s第2号対象でガス状の場合に0.5m/s
抑制濃度は作業者の呼吸域で測るフード形式に応じた所定の測定点を確認する
第1管理区分なら抑制濃度にも適合作業環境測定と局排性能確認は別
抑制濃度方式なら風速は不要設計・性能管理では風速や風量も重要
囲い式は平均風速が基準以上ならよい第2号の囲い式は開口面の最小風速で判断する
16点測定は告示第75号に書かれている16以上の分割は定期自主検査指針が示す具体的測定方法

よくある質問

第1号の抑制濃度と管理濃度が同じ数値なら、同じ意味ですか?

同じ意味ではありません。

数値が同じ場合があっても、抑制濃度は局所排気装置の性能確認、管理濃度は単位作業場所の作業環境測定結果を評価するための指標です。測定目的と評価方法を区別する必要があります。(厚生労働省)

抑制濃度方式の局排は、毎回濃度を測らなければ性能を確認できませんか?

定期自主検査指針では、過去に抑制濃度の検査に適合しており、その際の所定位置の風速を記録している場合、その後にその風速と比較する方法が示されています。したがって、適合時の運転条件と風速を記録しておくことが重要です。(厚生労働省)

「16か所で風速を測る」は法令上の制御風速そのものですか?

違います。

告示第75号第2号が定めているのは、囲い式・ブース式では開口面の最小風速、外付け式・レシーバー式では最も離れた作業位置の風速という性能基準です。16以上に分割する方法は、厚生労働省の定期自主検査指針で示されている具体的な検査方法です。(厚生労働省)

まとめ

特化則に関係する局所排気装置では、対象物質によって抑制濃度方式と制御風速方式を使い分ける必要があります。

告示第75号第1号の対象では、フード外側の有害物質濃度を物質ごとの抑制濃度以下にすることが性能基準です。

一方、第2号では、ガス状0.5m/s、粒子状1.0m/sの制御風速が定められています。

ただし、「ガスだから0.5m/s」と判断するのではなく、SDSで物質と含有率を確認し、施行令、特化則、告示第75号まで確認することが出発点です。

また、抑制濃度方式であっても、局所排気装置の設計には吸引風速や排風量の検討が必要です。完成後の法令上の性能確認と、設計段階の風速・風量計算を混同しないことが重要です。

📚 主な参考資料

この記事は、労働安全衛生に関する一般的な情報提供を目的としています。個別の事業場での適用判断は、使用物質、含有率、作業内容、設備条件などによって変わります。実際の対応では、最新の法令・告示・行政情報、SDS、設備仕様及び現場状況を確認してください。

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この記事を書いた人

労働衛生コンサルタント。製造現場で約10年、環境安全部門で約20年、合計約30年の実務経験があります。化学物質管理、作業環境管理、局所排気、ISO45001及び安全衛生教育を中心に、現場で実行・継続できる仕組みづくりを支援しています。

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