【第23回】局所排気装置の管理値の決め方|静圧・風量・制御風速の測定記録

【第23回】局所排気装置の測定記録と管理値の設定|静圧・風量・制御風速から性能低下を早期発見する方法

局所排気装置の定期自主検査を実施したところ、必要な制御風速が確保されていました。

では、次の定期自主検査まで、吸引性能について何も確認しなくてよいのでしょうか。

例えば、あるドラフトチャンバーでは、設置当初の開口面最小風速が0.60 m/sでした。

その後、数か月にわたって測定を続けると、次のようになったとします。

測定時期開口面の最小風速
設置当初0.60 m/s
1か月後0.58 m/s
2か月後0.55 m/s
3か月後0.53 m/s
4か月後0.49 m/s
5か月後0.46 m/s

この数値を見ると、風速が徐々に低下していることが分かります。

仮に、有機溶剤中毒予防規則第16条第1項の原則値0.4 m/sが適用される囲い式フードであれば、最後の0.46 m/sも数値上は原則値を上回っています。

しかし、設置当初の0.60 m/sから0.46 m/sへ低下しており、何らかの性能変化が生じている可能性があります。

もし、測定結果を記録していなければ、この変化に気付かないかもしれません。

そこで重要になるのが、正常時の測定値を記録し、性能の変化を早期に発見するための管理値を設定することです。

この記事では、局所排気装置の制御風速・排風量・静圧について、どのように正常値を設定し、どのような記録を残し、いつ異常調査を行うべきかを解説します。

また、測定値をグラフにして管理する方法や、複数のフードを接続した設備での注意点も取り上げます。

目次

1. なぜ局所排気装置の測定記録が重要なのか?

局所排気装置は、使用している間に性能が変化することがあります。

例えば、ダクト内部に粉じんが堆積すると、空気の流れに対する抵抗が増える可能性があります。

空気清浄装置のフィルターが目詰まりすると、排風量が低下する場合があります。

また、排風機の回転数やダンパーの設定が変わると、吸引能力が変化することがあります。

その日の測定値だけでは判断しにくい

例えば、あるダクトの静圧を測定したところ、−320 Paだったとします。

この数値だけを見て、正常か異常かを判断できるでしょうか。

できません。

なぜなら、そのダクトが正常に運転しているときの静圧が分からないからです。

もし正常時の静圧が−300 Paだったのであれば、今回の測定値との差は20 Paです。

一方、正常時の静圧が−180 Paだった場合には、140 Paの差があります。

ただし、差が大きいことだけで不具合を断定できるわけではありません。測定条件の違いも考えられるためです。

正常時の測定記録が比較の基準になる

例えば、設備が正常に稼働しているときに、次の値を記録しておきます。

  • ドラフトチャンバーの開口面最小風速
  • フードごとの排風量
  • 主管の排風量
  • ダクト内の静圧
  • 空気清浄装置の前後差圧
  • 排風機の回転数

これらを定期的に測定すれば、設備の性能がどのように変化しているか把握しやすくなります。

ただし、記録した数値を比較する際には、サッシ高さやダンパー開度などの測定条件も同じであることが重要です。

2. 「法定基準」「正常時の基準値」「管理値」は何が違うのか?

最初に、この3つの違いを明確にします。

局所排気装置を管理するときに、これらを混同すると、適切な性能評価ができなくなる場合があります。

① 法令上の性能基準

例えば、有機溶剤中毒予防規則第16条第1項には、フード形式に応じた制御風速の原則値が規定されています。

フード形式原則となる制御風速
囲い式フード0.4 m/s
外付け式・側方吸引型0.5 m/s
外付け式・下方吸引型0.5 m/s
外付け式・上方吸引型1.0 m/s

同条には一定の例外規定があります。

また、取り扱う物質や作業によっては、抑制濃度などが性能要件となる場合もあります。

したがって、この表の値をすべての局所排気装置へ一律に適用してはいけません。

② 正常時の基準値

正常時の基準値とは、設備が必要な性能を確保していることを確認したうえで、実際に測定した値です。

例えば、あるドラフトチャンバーについて、設置当初に次の結果が得られたとします。

  • 開口面最小風速:0.60 m/s
  • 前面開口部からの流入風量:12.0 m³/min
  • 指定測定点のダクト静圧:−300 Pa

これらを正常時の基準値として記録します。

ただし、これらの数値だけで性能が正常であることを証明できるわけではありません。

適用法令の性能要件、設計条件、実際の捕捉状況などが適切であることを別途確認しておく必要があります。

③ 事業場の管理値

管理値とは、正常時の値から性能が変化した場合に、異常調査などを始めるための目安です。

例えば、正常時の最小風速が0.60 m/sだった設備について、事業場が次のような値を設定することが考えられます。

区分説明用の設定例
正常時の基準値0.60 m/s
注意値0.54 m/s
対応値0.48 m/s
法定の原則値0.40 m/s

※注意値0.54 m/s、対応値0.48 m/sは、管理値の考え方を説明するために仮定した数値です。国の基準値でも、すべての設備に推奨される値でもありません。

この例では、風速が0.54 m/s以下になった段階で変化を確認し、0.48 m/s以下では原因調査と必要な改善に進む、という自主的な管理が考えられます。

もちろん、0.48 m/sより高い値であっても、急激な低下や捕捉不良などが見つかれば、調査が必要になる場合があります。

重要なのは管理値が法定基準に優先するわけではないこと

例えば、事業場の対応値を0.48 m/sに設定したからといって、法令上の性能要件を変更できるわけではありません。

また、法定の原則値を上回っていれば、必ず作業者へのばく露を十分に防止できていると断定できるものでもありません。

3. 管理値を決める前に、正常時の基準値を設定する

管理値を設定するには、まず基準となる正常時の測定値が必要です。

ここで注意したいのは、設備が設置されたときの測定値を、無条件に正常値として扱わないことです。

ステップ① 適用される性能要件を確認する

まず、対象物質や作業内容に応じて、適用される法令・告示を確認します。

制御風速が性能要件となるのか、抑制濃度などの確認が必要なのかを明確にします。

ステップ② 実際の作業条件で性能を確認する

例えば、ドラフトチャンバーでは次の条件を確認します。

  • サッシの開口高さ
  • 内部に置かれた機器・容器
  • 排風機の運転条件
  • ダンパー開度
  • 室内の空調・給気状態
  • ほかのフードの使用状況

法令に基づく制御風速の測定を行う場合には、法令と検査指針に従った条件で測定します。

それとは別に、実作業における代表的な使用条件についても確認すると、維持管理に役立ちます。

ステップ③ 必要な性能が確保されていることを確認する

所定位置の制御風速や、必要に応じた有害物質の捕捉状況などを確認します。

正常時の基準値は、必要な性能が確保されている状態で設定することが重要です。

ステップ④ 同じ条件で測定を繰り返す

測定値には、測定器の誤差や気流の変動などによるばらつきがあります。

そのため、複数回測定し、通常どの程度変動するのかを確認します。

例えば、同じ位置で繰り返し測定した最小風速が次のようになったとします。

0.59、0.60、0.61、0.60、0.59 m/s

この場合には、約0.60 m/sを中心とした結果になっています。

ただし、5回測定しただけで管理幅を統計的に確定できるわけではありません。

測定器の性能、測定方法、気流の安定性、運転条件なども考慮する必要があります。

4. 制御風速の管理値をどのように設定するのか?

制御風速は、管理値を設定する際に特に注意が必要な項目です。

フードの形式によって、評価すべき位置が異なるためです。

囲い式フードの場合

例えば、ドラフトチャンバーでは、開口面の最小風速が重要です。

有機溶剤中毒予防規則第16条第1項の原則が適用される場合には、開口面における最小風速を評価します。

このため、開口面全体の平均風速だけを管理していても、局所的な風速不足を見落とす可能性があります。

外付け式フードの場合

例えば、側方吸引型の外付け式フードでは、対象とする蒸気を吸引しようとする範囲内で、開口面から最も離れた作業位置の風速が重要です。

フードの吸込み口で測定した風速を、そのまま制御風速として管理してはいけません。

管理値の設定で確認すること

例えば、次の事項を整理します。

  • 適用法令における必要な制御風速
  • 設計時に想定した制御風速
  • 正常時の実測値
  • 測定値のばらつき
  • 作業中の風速変動
  • 有害物質の発散状態
  • 測定値が低下した場合のばく露リスク

これらを踏まえて、注意値や対応値を設定します。

計算例①|正常時から何%低下したのか?

正常時の開口面最小風速が0.60 m/sだったとします。

現在の測定値が0.51 m/sの場合、

低下量は、

0.60 − 0.51 = 0.09 m/s

です。

低下率は、

低下率 = (正常時の値 − 現在値) ÷ 正常時の値 × 100

なので、

(0.60 − 0.51) ÷ 0.60 × 100

低下率 = 15%

となります。

つまり、正常時から15%低下しています。

ただし、15%という低下率だけで法令違反かどうかを判断するものではありません。

一方、法令上の性能要件を満たしていても、この変化が継続している場合には原因調査が必要になる可能性があります。

5. 測定結果をグラフにすると性能低下が分かりやすくなる

測定結果を一覧表で管理する方法も有用ですが、時系列のグラフにすると変化を把握しやすくなります。

例えば、先ほどのドラフトチャンバーの測定値をもう一度見てみましょう。

月最小風速自主管理上の判定例
初回0.60 m/s基準値
1か月後0.58 m/s通常管理
2か月後0.55 m/s通常管理
3か月後0.53 m/s注意
4か月後0.49 m/s注意
5か月後0.46 m/s対応

ここでは、説明用に次の管理を設定します。

  • 注意値:0.54 m/s以下
  • 対応値:0.48 m/s以下

測定値が徐々に低下していることに加えて、3か月後には注意値に到達し、5か月後には対応値を下回っています。

このように、法定の原則値に達する前から、設備の状態を調べるための判断材料を得ることができます。

注意値を下回ったら何をするのか?

例えば、次の確認を行います。

  1. 測定条件や測定器に問題がないか確認する。
  2. 同じ位置で再測定する。
  3. 過去の測定記録と比較する。
  4. 排風量や静圧に変化がないか確認する。
  5. 必要に応じて原因調査を実施する。

対応値を下回ったらどうするのか?

まず、必要な捕捉性能が確保されているか確認します。

また、性能低下の程度や対象物質の危険性に応じて、作業の一時停止を含む必要な保護措置を検討します。

管理値を下回った場合の対応は、事前に事業場として決めておくことが重要です。

6. 排風量の管理値はどのように決めるのか?

次に、排風量の管理を考えます。

排風量は、ダクト内部を流れる空気の体積流量です。

通常、次の式で求めます。

Q = 60 × A × Vavg

  • Q:排風量(m³/min)
  • A:ダクト断面積(m²)
  • Vavg:断面平均風速(m/s)

計算例②|正常時12 m³/minの設備

ある局所排気装置で、正常時の排風量が12.0 m³/minだったとします。

現在の排風量を測定したところ、10.8 m³/minでした。

この場合、

低下量 = 12.0 − 10.8

低下量 = 1.2 m³/min

です。

低下率は、

1.2 ÷ 12.0 × 100

低下率 = 10%

となります。

排風量が10%低下したら不適合なのか?

排風量が正常時より10%低下したという事実だけで、直ちに法令上の不適合と断定することはできません。

しかし、排風量の低下によって、必要な制御風速などの性能を確保できなくなる可能性があります。

そのため、排風量の変化が見つかった場合には、フードで必要な性能が得られているか確認します。

注意したいのは「設計値」と「正常時の値」の違い

例えば、設計必要排風量が12.0 m³/minで、正常時の測定値が14.0 m³/minだったとします。

この場合、12.0 m³/minは設計上の必要排風量、14.0 m³/minは正常時の実測排風量です。

この2つを同じ意味で使用してはいけません。

また、14.0 m³/minから12.0 m³/minへ低下した場合、設計必要排風量と一致したとしても、制御風速の低下や各枝の流量配分の変化が生じている可能性があります。

必要な性能を確認したうえで判断する必要があります。

7. 複数フードの設備では、主管風量だけを管理してはいけない

複数のフードを1台の排風機へ接続している設備を考えます。

例えば、フードAとフードBがあり、それぞれ枝ダクトを通して主管に接続されています。

正常時の排風量

測定位置正常時
フードAの枝ダクト7.2 m³/min
フードBの枝ダクト4.8 m³/min
主管12.0 m³/min

この設備で、数か月後に次の測定結果が得られたとします。

測定位置正常時現在
フードA7.28.2
フードB4.83.8
主管12.012.0

単位:m³/min

主管の排風量は変わっていません。

しかし、フードAの風量は増加し、フードBの風量は減少しています。

なぜこのような変化が起こるのか?

例えば、枝ダクトBの抵抗が大きくなった場合、流量配分が変わる可能性があります。

一方、枝ダクトAのダンパーが開いた場合などにも、流量配分が変化することがあります。

この設備では何を記録するのか?

主管の排風量だけでなく、各枝ダクトの排風量も記録することが重要です。

また、各フードで必要な制御風速などの性能が確保されているか確認します。

8. 静圧の管理値はどのように設定するのか?

静圧の管理では、制御風速や排風量とは異なる注意が必要です。

静圧は低下すれば必ず悪いわけではない

例えば、あるダクトで、正常時に−300 Paだった静圧が、現在は−350 Paになったとします。

この場合、符号付きの静圧値は50 Pa低下し、負圧の絶対値は50 Pa増加しています。

しかし、この結果だけでダクトの閉塞が生じたと断定することはできません。

逆に、静圧が−300 Paから−250 Paになった場合も、それだけで正常・異常は判断できません。

なぜ静圧の評価が難しいのか?

静圧は、次の条件によって変わるためです。

  • 排風量
  • 排風機回転数
  • ダクト系統の抵抗
  • ダンパー開度
  • フィルターの状態
  • 測定位置
  • 室内圧力や給気条件

そのため、静圧の管理値を設定する際には、正常時の測定値だけでなく、運転条件と排風量も記録しておく必要があります。

静圧の管理で推奨する方法

例えば、ある測定点について、正常時の静圧が−300 Paだったとします。

この場合、単純に−300 Paを基準とするだけではなく、次の情報を組み合わせます。

項目正常時の記録例
静圧−300 Pa
排風量12.0 m³/min
排風機回転数1,500 min⁻¹
ダンパー開度設定位置で固定
使用フードA・Bとも使用

測定値が変化したときには、これらの条件を比較します。

また、正常時に同じ条件で繰り返し測定し、どの程度の静圧変動が生じるか把握しておくことも重要です。

静圧の許容範囲を一律に決めない

例えば、「正常時の静圧から±10%以内なら良好」というルールを、すべての局所排気装置へ当てはめることは適切ではありません。

静圧と風量の関係は設備によって異なるためです。

静圧の管理値は、設備の構造、正常時の変動、測定精度、排風量との関係を踏まえて設定することを推奨します。

9. 静圧の変化から性能低下を早期発見する

静圧は、異常が発生したことを調べるための情報として役立ちます。

例えば、正常時には−250 Paだったダクトの静圧が、徐々に−270 Pa、−290 Paへ変化する場合があります。

このような傾向が見られた場合には、排風量や排風機の運転状態を併せて確認します。

静圧だけで原因を決めない

例えば、次のような原因が考えられます。

  • ダクト内部への粉じん堆積
  • ダンパー開度の変化
  • 空気清浄装置の抵抗増加
  • 排風機回転数の変化
  • ダクトの空気漏れ

ただし、それぞれが静圧へ与える影響は、異常の発生位置によって異なります。

したがって、静圧が特定の方向へ変化したからといって、原因を一つに絞ることはできません。

正常時との比較で重要なこと

例えば、正常時と現在の測定値を比較する場合には、少なくとも次の点を確認します。

  1. 同じ測定位置か。
  2. 同じフード使用条件か。
  3. 排風機回転数が同じか。
  4. ダンパー開度が同じか。
  5. 排風量が変化していないか。
  6. 空気清浄装置の状態が変わっていないか。

これらを確認することで、静圧の変化が何によって生じたのか、原因を絞り込みやすくなります。

10. 空気清浄装置の差圧を管理する

空気清浄装置の状態を管理する場合には、入口側と出口側の圧力差が役立つ場合があります。

例えば、フィルター式の空気清浄装置を考えます。

フィルターに粉じんが蓄積すると、空気が通過する際の抵抗が増加することがあります。

計算例③|フィルターの差圧管理

同じ風量で比較でき、入口・出口の測定断面で速度圧の差を無視できる条件を仮定します。

測定時期フィルター前後の圧力損失
フィルター交換直後90 Pa
1か月後105 Pa
2か月後120 Pa
3か月後145 Pa

この場合、フィルター前後の圧力損失が徐々に増加しています。

フィルターの目詰まりが進行している可能性があります。

ただし、実際の空気清浄装置では、風量が変化すると圧力差も変わります。

そのため、異なる風量で測定した差圧を、そのまま比較して目詰まりの程度を判断してはいけません。

管理値はどのように設定するのか?

フィルターの交換基準は、メーカーの仕様や装置の運転条件などを確認して設定します。

例えば、メーカーが所定の風量における最終圧力損失を指定している場合には、その値を考慮します。

最終圧力損失が不明な状態で、任意に「150 Paになれば交換」などと決めることは推奨しません。

また、差圧だけではフィルターの破損やバイパス漏れを判断できない場合があります。

必要に応じてフィルターの取付状態や捕集性能も確認する必要があります。

11. 管理値を設定するときに測定誤差をどう扱うか?

測定値を管理する場合には、測定器の誤差を無視してはいけません。

例えば、風速計で0.50 m/sという値を測定した場合を考えます。

この測定値が、真の風速と完全に一致しているとは限りません。

測定器の精度、校正状態、測定位置、気流の変動などが結果に影響します。

測定器の性能を確認する

選択したプローブと測定範囲に対応する仕様を確認する必要があります。

測定器によっては、低風速域での測定精度が異なります。

測定方法によるばらつきにも注意する

例えば、風速計のプローブの位置が数cm変わっただけで、測定値が変化する場合があります。

特に、外付け式フードでは吸込み口からの距離によって風速が大きく変化するため、測定位置の再現性が重要です。

また、ドラフトチャンバーの開口面では、プローブの向きや作業者の身体による気流の乱れが影響する場合があります。

管理値を測定誤差と同程度の幅で設定してよいのか?

例えば、測定値が通常0.02 m/s程度変動する設備で、注意値を基準値から0.01 m/sだけ低い値に設定した場合を考えます。

この場合、通常の測定変動によって注意値を頻繁に下回る可能性があります。

一方、管理値を基準値から大きく離しすぎると、性能低下を発見するのが遅れる可能性があります。

そのため、管理値を設定する際には、測定器の仕様や実際の測定のばらつき、必要な性能上の余裕を考慮する必要があります。

ただし、法定の性能要件を、測定誤差を理由に任意に緩和することはできません。

12. 注意値・対応値を決める実務手順

ここまでの内容を、実際の設定手順として整理します。

ステップ① 法令上の性能要件を明確にする

まず、対象物質・作業・設備に適用される性能要件を確認します。

ステップ② 正常時の測定値を取得する

必要な性能が確保されていることを確認した状態で、制御風速、排風量、静圧などを測定します。

ステップ③ 測定値のばらつきを確認する

同じ測定条件で繰り返し測定し、通常の変動範囲を確認します。

ステップ④ 性能低下が生じた場合の影響を考える

例えば、有害物質の発散量が多い設備や、作業者の呼吸域へ汚染気流が向かいやすい設備では、性能低下を早期に発見する重要性が高くなります。

ステップ⑤ 注意値・対応値を設定する

法令上の性能要件、設計上の必要性能、正常時の値、測定のばらつきなどを踏まえて設定します。

ステップ⑥ 管理値に到達したときの対応を決める

例えば、次のような対応を事前に決めておきます。

状態実務上の対応例
通常管理範囲測定・記録を継続
注意値に到達再測定、条件確認、傾向調査
対応値に到達原因調査、性能確認、必要な改善
法令上の性能要件を満たさない必要な保護措置、適用法令に従った補修・性能回復の確認

※この4段階は事業場での管理方法の提案であり、法令で一律に定められた管理区分ではありません。

13. 測定記録表には何を記載するのか?

測定記録を実務に役立てるためには、測定値だけでなく、測定条件を残すことが重要です。

例えば、次の項目を設定します。

区分記録項目
設備情報設備名、設備番号、系統番号
測定情報測定日、測定者、測定器
フード形式、開口寸法、サッシ高さ
作業条件発散源、作業位置、使用フード
運転条件排風機回転数、周波数、ダンパー開度
風速測定位置、各測定値、評価値
風量測定断面、平均風速、排風量
静圧測定位置、符号付き静圧
差圧空気清浄装置等の前後差圧
比較正常時の基準値、今回値、変化量
判定適用法令への適合、自主管理値との比較
対応調査内容、改善措置、再測定結果

この記録表は、維持管理のための提案です。

法定の定期自主検査記録として使用する場合には、各規則が定める記録事項も満たす必要があります。

実務上は測定位置の図面も保存する

例えば、「ダクト静圧−300 Pa」とだけ記録しても、後から同じ位置で測定できなければ、正確に比較することが難しくなります。

そのため、系統図にP1、P2、P3などの測定点番号を付け、測定位置を記録しておくことを推奨します。

14. Excelで測定記録を管理する方法

実際の事業場では、Excelなどを使用して測定記録を管理する方法があります。

例えば、次のような表です。

測定月基準風速実測最小風速低下率自主管理判定
4月0.600.600%通常
5月0.600.583.3%通常
6月0.600.558.3%通常
7月0.600.5311.7%注意
8月0.600.4918.3%注意
9月0.600.4623.3%対応

単位:m/s(風速)

※判定には前述の説明用管理値を使用しています。

Excelの計算式

例えば、B2セルに正常時の基準風速、C2セルに今回の実測最小風速を入力する場合、

低下率は次の式で求められます。

=(B2-C2)/B2

セルの表示形式をパーセントにすると、低下率が表示されます。

条件付き書式を利用する

Excelの条件付き書式を使えば、測定結果に応じてセルの色を変えられます。

例えば、通常管理は緑、注意は黄色、対応が必要な状態は赤などです。

ただし、色だけに頼らず、「通常」「注意」「対応」などの文字も表示することを推奨します。

Excelで法令適合も自動判定できるのか?

一律の数式だけで、すべての局所排気装置の法令適合を判定することはできません。

例えば、対象物質やフード形式によって性能要件が異なります。

また、制御風速を適切な位置で測定しているか、測定条件が適切かといった事項は、数値だけでは判断できません。

そのため、Excelでの自動判定は、あくまで適切な測定と評価を支援する方法として使用します。

15. 実務事例|定期自主検査では良好だった設備の性能低下を発見する

ここでは、架空の製造工場を想定します。

この工場では、ドラフトチャンバーを使用して有機溶剤を取り扱っています。

定期自主検査の結果、必要な制御風速が確保されていました。

その際、開口面の最小風速0.60 m/sを正常時の基準値として記録しました。

3か月後に注意値へ到達した

その後、事業場で自主的に測定を続けたところ、最小風速が0.53 m/sに低下しました。

設定した注意値0.54 m/s以下となったため、設備保全担当者へ報告しました。

最初に何を確認するのか?

まず、サッシ高さや排風機の回転数など、測定条件を確認します。

次に、同じ位置で再測定し、測定値が再現するか確認します。

そして、正常時の排風量・静圧と比較します。

調査でフィルターの抵抗増加が見つかった

仮に、空気清浄装置のフィルター前後差圧が正常時より大きくなっていたとします。

その場合、フィルターの目詰まりなどによって排風量が低下している可能性があります。

ただし、フィルター前後の差圧だけで原因を断定せず、風量や内部の状態も確認します。

改善後に何を確認するのか?

必要な補修やフィルター交換を実施した場合には、排風量と制御風速などを再測定します。

例えば、最小風速が0.59 m/sへ回復した場合、改善によって性能が回復した可能性を確認できます。

また、設備の状態が安定しているか、一定期間観察することも有用です。

この事例のポイント

今回の例では、法定原則値0.4 m/sを下回る前に、設備の変化を発見しています。

このように、自主的な管理値を設定することで、必要な性能が不足する前に原因調査と改善へ進める場合があります。

16. 管理値を見直す必要があるのはどのようなときか?

一度設定した管理値を、永久に変更してはいけないというわけではありません。

例えば、次のような場合には、管理値を見直す必要が生じることがあります。

① フードの形状や位置を変更した場合

フードと発散源の距離や開口面積が変わると、必要な排風量や制御風速の条件が変化する場合があります。

② ダクト系統を改造した場合

ダクト径、長さ、エルボ、枝ダクトの構成などを変更すると、系統抵抗が変わる場合があります。

③ 排風機を交換した場合

新しい排風機の性能曲線や運転条件が異なれば、静圧や排風量も変化する可能性があります。

④ 作業方法や対象物質が変わった場合

有害物質の発散状態や必要な性能が変わる場合があります。

⑤ 測定器や測定方法を変更した場合

測定器の特性が異なると、過去の測定値との比較に影響する場合があります。

管理値を変更するときの注意点

例えば、設備の性能が徐々に低下しているにもかかわらず、そのときの測定値を新しい正常値として採用してしまうと、異常を見逃す可能性があります。

そのため、管理値を変更する際には、必要な性能を確保していることを確認し、変更理由と変更前後の値を記録することが重要です。

17. 法令上の要求事項と自主的な管理を区別する

ここでは、日本の法令と厚生労働省の検査指針における位置付けを整理します。

有機溶剤中毒予防規則第16条・第18条

第16条では、対象となる局所排気装置の制御風速について、フード形式に応じた性能要件が規定されています。

第18条では、労働者が有機溶剤業務に従事する間の局所排気装置の稼働について規定されています。

いずれも適用される例外や特例の確認が必要です。

同規則第20条・第21条

第20条では、対象となる局所排気装置について、原則として1年以内ごとに1回の定期自主検査が規定されています。

第21条では、その定期自主検査について所定事項を記録し、3年間保存することが規定されています。

厚生労働省「局所排気装置の定期自主検査指針」

同指針では、検査項目、検査方法、判定基準などが示されています。

例えば、ダクト内部の堆積や接続部の異常などを調べる方法として、静圧測定を使用する方法があります。

また、測定した静圧が設計値と著しい差がないことを判定基準とする取扱いも示されています。

ただし、この指針は、すべての設備に同じ注意値・対応値を設定する制度ではありません。

注意値・対応値は法令上の義務なのか?

今回紹介した注意値・対応値は、事業場が性能低下を早期発見するために自主的に設定する管理方法です。

すべての局所排気装置に、一律の注意値・対応値を設定することが法令で義務付けられているわけではありません。

一方、法令上の性能要件を満たす必要がある設備では、自主管理値がどのように設定されていても、その要求事項を確保する必要があります。

18. 現場で使える管理値設定チェックリスト

確認項目確認
適用される性能要件を確認した□
設計必要排風量を確認した□
正常時に必要な性能が確保されていることを確認した□
正常時の測定値を記録した□
測定位置を図面に記録した□
フードの開口状態を記録した□
排風機回転数を記録した□
ダンパー開度を記録した□
測定器の仕様・校正状態を確認した□
測定値のばらつきを確認した□
制御風速の注意値・対応値を検討した□
排風量の変化を確認する方法を決めた□
静圧を比較する条件を決めた□
空気清浄装置の差圧管理方法を確認した□
管理値に到達した際の対応を決めた□
異常を報告する担当者を決めた□
改善後の再測定方法を決めた□
記録の保存・管理方法を決めた□
改造・修理時の管理値見直し方法を決めた□

このチェックリストは実務上の管理方法を整理するための提案です。すべての項目が一律に法的義務となるものではありません。

よくある質問

Q1. 制御風速が法定の原則値を満たしていれば、管理値は必要ありませんか?

自主的な管理値の設定は一律の法的義務ではありません。

しかし、性能低下を早期に発見するためには、正常時の値と比較し、注意値・対応値を設定する方法が有用な場合があります。

Q2. 制御風速の管理値は、法定原則値の何%上に設定すればよいですか?

一律の割合はありません。

設備の設計条件、正常時の測定値、測定のばらつき、有害物質の発散状況などを踏まえて決める必要があります。

Q3. 静圧が正常時から10%変化した場合、異常ですか?

10%の変化だけで異常と断定することはできません。

排風量や排風機回転数、ダンパー開度などを確認し、原因を調べる必要があります。

Q4. 主管の排風量が正常なら、すべてのフードも正常ですか?

必ずしもそうではありません。

複数フードを接続した設備では、各枝ダクトの流量配分が変化する場合があります。

Q5. フィルターの差圧が増加したら、必ず交換する必要がありますか?

差圧の増加は目詰まりの可能性を示しますが、交換が必要かどうかはメーカーの仕様、運転風量、捕集性能などを確認して判断します。

Q6. 管理値を設定すれば、定期自主検査を省略できますか?

できません。

自主的な管理値による点検・監視は、法令上必要な定期自主検査の代わりにはなりません。

Q7. 測定記録は何年間保存すればよいですか?

法定の定期自主検査記録は、適用規則に定められた期間保存する必要があります。

例えば、有機溶剤中毒予防規則第21条では3年間です。

一方、自主的な日常測定記録については、設備の履歴管理に役立つ期間を組織として設定することが考えられます。

Q8. 設備を改造したら、以前の管理値をそのまま使用できますか?

改造内容によります。

フード、ダクト、排風機などを変更した場合には、性能が変化する可能性があります。

必要な性能を確認し、管理値の見直しが必要か検討してください。

まとめ|測定記録を活用して、性能低下を早期に発見する

局所排気装置の性能を長期にわたって維持するには、単に定期自主検査を実施するだけでなく、測定結果を継続的に活用することが重要です。

そのためには、設備が必要な性能を確保している状態で、制御風速、排風量、静圧などを記録しておきます。

次に、正常時の測定値を基準として、性能の変化を把握します。

必要に応じて注意値や対応値を設定し、性能低下の兆候が見られた段階で原因調査を始めます。

ただし、注意値・対応値は事業場が自主的に設定する管理方法であり、法令上の性能要件に代わるものではありません。

また、制御風速、排風量、静圧は、それぞれ異なる情報を示します。

一つの測定値だけで設備全体の状態を判断せず、複数の測定結果と設備の運転条件を組み合わせる必要があります。

測定記録の目的は、数値を保存することではありません。正常時との違いを早期に発見し、必要な吸引性能が不足する前に改善へつなげることです。

今回の考え方を利用すれば、局所排気装置の点検を、異常が発生してから対応する管理から、性能低下の兆候を把握して予防する管理へ発展させることができます。

次回は、局所排気装置の既設設備の改善について、フードの位置変更、囲い込み、ダクト抵抗の低減、排風機の運転条件の見直しなどを、改善前後の数値を比較しながら解説します。

主な参考資料

  1. 『やさしい作業環境改善技術』第18章「工事完成時の点検と性能が出ない場合の対策」
  2. e-Gov法令検索「有機溶剤中毒予防規則」
  3. 厚生労働省「局所排気装置の定期自主検査指針」等の周知等について

※本記事の注意値、対応値、風速・風量・静圧の測定例は、管理方法を理解するための仮定値です。

※注意値・対応値について、提供PDFにすべての設備へ適用できる統一的な数値が記載されているわけではありません。本記事の管理値設定方法は、原資料の測定記録・維持管理の考え方を発展させた実務上の提案です。

※実際の設備では、対象物質、適用法令、設備の特性、測定条件、測定器の性能などを考慮して管理方法を設定してください。

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この記事を書いた人

労働衛生コンサルタント。製造現場で約10年、環境安全部門で約20年、合計約30年の実務経験があります。化学物質管理、作業環境管理、局所排気、ISO45001及び安全衛生教育を中心に、現場で実行・継続できる仕組みづくりを支援しています。

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