局所排気装置の静圧・速度圧・全圧とは?圧力損失との違いを計算例で解説

局所排気装置のダクト計算を学び始めると、「静圧」「速度圧」「全圧」「圧力損失」という言葉が出てきます。

特に混同しやすいのが、**「静圧が下がった量=圧力損失なのか」**という点です。

結論からいうと、必ずしもそうではありません。

局所排気装置のダクト内では、空気の持つ圧力を「静圧」と「速度圧」に分けて考え、その合計を「全圧」として扱います。圧力損失を考えるときは、原則として上流と下流の全圧の変化を見ることが重要です。

この記事では、局所排気装置を初めて学ぶ人でも理解できるように、4つの圧力の意味から計算例まで順番に説明します。

💡 最初に押さえる結論

全圧 Pt = 静圧 Ps + 速度圧 Pv

です。

ダクト内で風速が変わると速度圧も変わるため、静圧の変化だけを見て圧力損失と判断すると誤ることがあります。

圧力損失を考えるときは、全圧が流れ方向にどれだけ減少したかを確認することが基本です。

目次

静圧・速度圧・全圧・圧力損失の違い

まず、4つの言葉を整理します。

用語意味基本的な見方
静圧 Psダクト内の空気が周囲を押す、または吸い込む状態を表す圧力吸引側では大気圧基準でマイナスになることが多い
速度圧 Pv空気が流れている速さに対応する運動エネルギーを圧力で表したもの風速が大きいほど大きくなる
全圧 Pt静圧と速度圧を合わせたものPt = Ps + Pv
圧力損失摩擦や曲がりなどで失われた流れの機械的エネルギー上流と下流の全圧差で考える

静圧とは

静圧は、空気の「押す・吸う状態」を表す圧力です。

局所排気装置のファンより上流、つまり吸引側では、ダクト内部の圧力は周囲の大気圧より低くなるため、大気圧を0Paとして表すと、

−100Pa
−300Pa
−500Pa

などの負の値になることがあります。

ここで重要なのは、

−500Paだから500Paの圧力損失がある

という意味ではないことです。

−500Paという数値は、あくまでその測定点における静圧の状態です。

圧力損失とは別の量です。

速度圧とは

速度圧は、空気が動いていることで持っているエネルギーを圧力として表したものです。

一般的な定義式は、

Pv = ρ × V² ÷ 2

です。

  • Pv:速度圧[Pa]
  • ρ:空気密度[kg/m³]
  • V:平均風速[m/s]

速度圧は風速の2乗に比例します。動圧が1/2 × ρ × V²で表されることは、流体力学で用いられる基本関係です。京都大学OCW

例えば、説明用として空気密度を1.20kg/m³、ダクト内平均風速を10m/sと仮定します。

Pv = 1.20 × 10² ÷ 2
= 60Pa

となります。

ここで使用した1.20kg/m³は、この記事の計算説明のための仮定値です。実設備の計算では、温度や圧力など必要な条件に応じて使用する空気密度を確認します。

また、速度圧は空気の速さによる量なので、この計算では正の値として扱います。

全圧とは

全圧は、静圧と速度圧を合計したものです。

Pt = Ps + Pv

  • Pt:全圧[Pa]
  • Ps:静圧[Pa]
  • Pv:速度圧[Pa]

例えば、

静圧 Ps = −400Pa
速度圧 Pv = 60Pa

なら、

Pt = −400 + 60
= −340Pa

です。

「速度圧が60Paだから、静圧−400Paからさらに60Pa引く」と考えると、

−460Pa

としてしまいますが、これは誤りです。

全圧=静圧+速度圧

なので、符号を含めて計算することが重要です。

圧力損失とは

圧力損失は、ダクトの壁面との摩擦、エルボ、ダンパー、縮小・拡大などによって、空気の持つ機械的エネルギーが失われることです。

高さによる位置エネルギーや密度変化などを無視でき、途中にファンなどのエネルギーを加える機器がない単純化した区間では、

圧力損失 = 上流側の全圧 − 下流側の全圧

として考えることができます。

ここで「静圧差」ではなく、全圧差であることが重要です。

なぜ「静圧の差=圧力損失」ではないのか

ここがこの記事で最も重要なポイントです。

ダクト内では、

静圧と速度圧が互いに変化する

ことがあります。

そのため、静圧だけを比較しても、本当に失われたエネルギーが分からない場合があります。

風速が同じなら静圧差と全圧差が一致することがある

説明用の仮定値で考えます。

空気密度:1.20kg/m³

A点:

  • 静圧:−400Pa
  • 風速:10m/s

B点:

  • 静圧:−470Pa
  • 風速:10m/s

両地点とも風速10m/sなので、

速度圧 = 1.20 × 10² ÷ 2
= 60Pa

です。

A点の全圧は、

−400 + 60 = −340Pa

B点は、

−470 + 60 = −410Pa

です。

したがって圧力損失は、

−340 −(−410)
= 70Pa

となります。

この例では静圧差も70Paです。

しかしこれは、A点とB点の速度圧が同じだから一致しただけです。

風速が変わると静圧差だけでは判断できない

次は風速を変えてみます。

A点:

  • 静圧:−400Pa
  • 風速:10m/s

B点:

  • 静圧:−500Pa
  • 風速:5m/s

空気密度は同じく1.20kg/m³と仮定します。

A点の速度圧は、

1.20 × 10² ÷ 2
= 60Pa

A点の全圧は、

−400 + 60
= −340Pa

です。

B点の速度圧は、

1.20 × 5² ÷ 2
= 15Pa

B点の全圧は、

−500 + 15
= −485Pa

です。

圧力損失は、

−340 −(−485)
= 145Pa

となります。

一方、静圧だけを見ると、

−400 → −500

なので差は100Paです。

つまり、

静圧差:100Pa
全圧の低下:145Pa

となり、同じではありません。

この違いが生じたのは、A点とB点で速度圧が、

60Pa → 15Pa

へ変化しているからです。

したがって、

風速が変わる区間では、静圧差だけを圧力損失として扱わない

ことが重要です。

ダクトが広がると静圧が回復することがある

さらに理解しておきたいのが、静圧回復です。

ダクトを緩やかに拡大すると、断面積が増えて風速が低下します。

風速が低下すれば速度圧も低下します。その速度圧の一部が静圧として現れることがあります。

これを静圧回復と考えることができます。

説明用の仮定値で確認します。

空気密度:1.20kg/m³

A点:

  • 静圧:−500Pa
  • 風速:12m/s

B点:

  • 静圧:−445Pa
  • 風速:6m/s

A点の速度圧は、

1.20 × 12² ÷ 2
= 86.4Pa

全圧は、

−500 + 86.4
= −413.6Pa

です。

B点の速度圧は、

1.20 × 6² ÷ 2
= 21.6Pa

全圧は、

−445 + 21.6
= −423.4Pa

です。

したがって圧力損失は、

−413.6 −(−423.4)
= 9.8Pa

です。

一方、速度圧は、

86.4 − 21.6
= 64.8Pa低下

しています。

静圧は、

−500 → −445

なので、

55Pa回復

しています。

整理すると、

速度圧の低下64.8Pa
= 静圧回復55Pa + 圧力損失9.8Pa

となります。

ここを見ると、「静圧が上がった=エネルギーが増えた」というわけではないことが分かります。

空気の持っていた速度圧の一部が静圧として現れ、残りが損失になっています。

途中にファンなどがない通常の受動的なダクト区間で、下流側の全圧が上流側より高くなる計算結果になった場合は、測定条件、計算、符号、測定位置などを一度確認する必要があります。

吸引側のマイナス記号を消さない

局所排気装置を計算するときに起こりやすいミスが、負圧の「−」を途中で消してしまうことです。

例えば、

静圧:−400Pa
速度圧:60Pa

なら、

全圧 = −400 + 60
= −340Pa

です。

340Paではありません。

吸引側の静圧や全圧は、大気圧を基準としたゲージ圧で負になることがあります。

そのため、計算では、

−340Pa → −410Pa

のような値をそのまま比較します。

この場合の全圧低下は、

−340 −(−410)
= 70Pa

です。

「マイナスだから数字が小さい・大きい」という感覚だけで判断せず、式へ符号をそのまま入れる方が間違いを防ぎやすくなります。

静圧測定は局所排気装置の点検にも使われる

静圧は計算だけの概念ではありません。

厚生労働省の「局所排気装置の定期自主検査指針」では、検査に使用する測定器としてピトー管及びマノメータが挙げられています。また、ダクト内部の粉じん等の堆積状態を確認する方法の一つとして、測定孔でダクト内静圧を測定し、設計値と著しい差がないか確認する方法も示されています。厚生労働省

つまり現場では、

「今の静圧はいくつか」

だけを見るのではなく、

設計時の値
正常運転時の値
現在の測定値

を比較することが重要です。

例えば正常時に−300Paだった地点が、同じ運転条件で−500Paになったとしても、その1点だけで「ダクトが詰まった」と断定するのは適切ではありません。

風量、ダンパー開度、フィルター差圧、ファン回転数、他の測定点の圧力などと組み合わせて原因を切り分けます。

圧力の知識と法令上の性能確認は分けて考える

ここも重要です。

静圧、速度圧、全圧、圧力損失を計算できても、それだけで局所排気装置が法令上適切に機能していると判断できるわけではありません。

厚生労働省の定期自主検査指針では、対象となる局所排気装置について、制御風速により性能を確認する場合には、フード型式に応じた所定位置で吸込み気流の速度を測定する方法が示されています。厚生労働省

したがって、

圧力計算
= ダクト系統やファンなどの状態を理解するための技術的な評価

と、

法令上要求される性能の確認

は分けて考える必要があります。

圧力が設計値どおりでも、発散源を適切に捕捉できているとは限りません。

反対に、ある1点の静圧だけが設計値と違うからといって、直ちに法令不適合と判断するものでもありません。

よくある4つの誤解

「静圧=圧力損失」ではない

静圧は、その場所の圧力状態です。

圧力損失は、上流から下流へ流れる間に失われた全圧です。

両者は同じものではありません。

「静圧がよりマイナスになった=その差がすべて損失」とは限らない

風速が変化すると速度圧も変わります。

したがって全圧を計算して比較します。

速度圧は静圧と同じようにマイナスになるわけではない

この記事で扱う速度圧は、

Pv = ρ × V² ÷ 2

なので正の量です。

吸引側でマイナスになりやすいのは静圧や全圧です。

ファンをまたぐ区間では全圧が上昇する

ダクトやエルボだけなら流れの機械的エネルギーは損失していきます。

しかしファンは空気へエネルギーを加える装置です。

そのため、ファン前後を一つの「受動的なダクト区間」と同じように考えてはいけません。

実務では「どの圧力を、どこで測ったか」が重要

経験者ほど注意したいのが、測定値の名称だけを比較しないことです。

例えば、

「昨日は−300Pa、今日は−400Paだった」

という情報だけでは十分ではありません。

少なくとも、

  • 同じ測定孔か
  • 同じファン回転数か
  • 同じダンパー開度か
  • フィルターや処理装置の状態は同じか
  • 同じ作業状態か
  • 比較しているのが静圧なのか全圧なのか

を確認する必要があります。

測定条件が違えば、数値が違っていても設備異常とは限りません。

逆に、同じ条件で測定した過去の正常値と大きく変化していれば、閉塞、漏れ、ダンパー異常、ファン性能低下などを調べる手掛かりになります。

まとめ

局所排気装置の圧力計算では、まず次の関係を押さえることが重要です。

全圧 Pt = 静圧 Ps + 速度圧 Pv

そして速度圧は、

Pv = ρ × V² ÷ 2

で求めます。

静圧は、その場所の圧力状態です。

速度圧は、空気の流れる速さによるエネルギーを圧力として表したものです。

全圧は、その2つを合わせたものです。

圧力損失は、原則として流れ方向に失われた全圧として考えます。

特に覚えておきたいのは、

静圧差と圧力損失は、いつも同じではない

という点です。

同じ径・同じ風速の区間では一致することがあります。しかし、ダクト径や風速が変われば速度圧も変わるため、静圧だけでは判断できません。

この考え方が理解できると、次に学ぶ直管、エルボ、ダンパーなどの圧力損失計算がかなり理解しやすくなります。

📚 主な参考資料

厚生労働省「局所排気装置の定期自主検査指針」等の周知等について(平成20年3月27日 基発第0327001号)
局所排気装置の検査項目、測定器、静圧測定、吸気・排気能力の確認方法を確認。厚生労働省
厚生労働省の資料を確認する

テラル株式会社「全圧(ぜんあつ) total pressure」
全圧を静圧と動圧の和とする用語整理を確認。参考規格としてJIS B 0131が示されている。Teral FAQ

一般社団法人 日本労働安全衛生コンサルタント会『令和7年度版 労働安全コンサルタント・労働衛生コンサルタント試験問題集』訂正資料
全圧、静圧、速度圧の関係「PT = Ps + Pv」を確認。労安コンサルタント会

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この記事を書いた人

労働衛生コンサルタント。製造現場で約10年、環境安全部門で約20年、合計約30年の実務経験があります。化学物質管理、作業環境管理、局所排気、ISO45001及び安全衛生教育を中心に、現場で実行・継続できる仕組みづくりを支援しています。

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