【第21回】局所排気装置の静圧測定で異常を発見する|正常時との比較から詰まり・漏れ・ファン不良を調べる方法
局所排気装置の吸引能力が低下したとき、どこに問題があるのかを調べる方法をご存じでしょうか。
例えば、以前は正常に吸引できていた装置で、ダクトの静圧を測定したところ、次のような結果になったとします。
- 正常時:−250 Pa
- 現在:−350 Pa
負圧の絶対値が100 Pa大きくなっています。
この結果を見て「ダクトのどこかが詰まっている」と判断してよいのでしょうか。
実際には、まだ断定できません。
ダクトの静圧は、排風量、ダクトの抵抗、排風機の回転数、ダンパーの開度などによって変わるからです。
しかし、静圧を測定する場所を適切に選び、正常時の測定記録と比較すれば、異常が発生している範囲を絞り込める場合があります。
特に、フード直後、枝ダクト、合流後の主管、空気清浄装置の前後、排風機付近など、複数の位置で測定することが重要です。
この記事では、静圧の基本的な考え方から、具体的な測定方法、ダクトの閉塞・漏れ・フィルター目詰まり・排風機不良の切り分け方まで説明します。
さらに、測定値を使った実務事例を通して、実際の現場でどのように原因調査を進めるかを解説します。
1. 静圧とは?なぜ設備の異常調査に役立つのか
静圧は、ダクト内部を流れる空気が持つ圧力の一つです。
局所排気装置では、空気の流れに関係する圧力を、一般に次の3つに分けて考えます。
| 圧力 | 意味 |
|---|---|
| 静圧 | 空気の持つ圧力のうち、速度圧を除いた成分 |
| 速度圧 | 空気の流速に対応する圧力 |
| 全圧 | 静圧と速度圧の和 |
これらには、次の関係があります。
全圧 = 静圧 + 速度圧
記号で表すと、
Pt = Ps + Pv
です。
- Pt:全圧(Pa)
- Ps:静圧(Pa)
- Pv:速度圧(Pa)
吸込み側のダクトでは静圧が負になる
例えば、局所排気装置のフードと排風機の間にあるダクトを考えます。
排風機が運転すると、ダクト内部の静圧が周囲の大気圧より低くなることがあります。
周囲の大気圧を0 Paとしたとき、ダクト内の静圧が−250 Paであれば、その場所では周囲より250 Pa低い圧力になっています。
このような状態を負圧と呼びます。
一方、排風機の吐出し側では、ダクト内部が周囲より高い圧力になる場合があります。
なぜ静圧が異常調査に役立つのか?
ダクトの内部に粉じんが堆積したり、フィルターが目詰まりしたりすると、空気の流れに対する抵抗が変化します。
また、ダクトに穴が開いて外部の空気が漏れ込む場合や、排風機の回転数が低下した場合にも、ダクト内の流れと圧力分布が変化します。
このような変化が、静圧の測定値に現れる場合があります。
そのため、静圧は設備の運転状態を調べるための重要な情報になります。
ただし、静圧は不具合の原因を直接示すものではありません。
静圧は、異常が起きている可能性を示す手掛かりとして使用し、排風量や設備の状態と組み合わせて判断します。
2. 「静圧が増えた」という表現に注意する
ここは、今回の記事で最初に理解してほしい部分です。
吸込み側のダクトでは、静圧が負の値になります。
そのため、「静圧が増えた」という表現は、人によって意味が異なる場合があります。
例えば、次の2つの状態を比べてみましょう。
| 状態 | 静圧 |
|---|---|
| A | −200 Pa |
| B | −350 Pa |
AからBへ変化した場合、符号付きの静圧値は150 Pa低下しています。
しかし、負圧の絶対値は200 Paから350 Paへ増加しています。
2つの表現を区別する
符号付きの静圧値で表現する場合
−200 Paから−350 Paへ変化したので、
「静圧が150 Pa低下した」
と表現します。
負圧の絶対値で表現する場合
200 Paから350 Paへ変化したので、
「負圧の絶対値が150 Pa増加した」
と表現します。
吸込み側ダクトの負圧については、
- 静圧増:負圧の絶対値が大きくなる
- 静圧減:負圧の絶対値が小さくなる
という意味です。
したがって、符号付きの静圧値の増減とは逆になります。
この違いを理解しておかないと、異常箇所の判断を誤る可能性があります。
実務ではどのように記録すればよいのか?
測定値は、原則として符号付きの数値で記録することを推奨します。
例えば、
「正常時−200 Pa、現在−350 Pa、変化量−150 Pa」
と記録します。
さらに必要に応じて、
「負圧の絶対値は150 Pa増加」
と説明すれば、誤解を防ぎやすくなります。

3. 静圧と圧力損失を混同してはいけない
静圧測定による原因調査では、もう一つ重要な点があります。
それは、静圧と圧力損失が異なるということです。
圧力損失とは?
圧力損失は、ダクト内の摩擦、エルボ、ダンパー、空気清浄装置などによって失われる機械的エネルギーを、圧力として表したものです。
例えば、同じ直径の水平な直管の入口と出口で、風速がほぼ同じ場合を考えます。
上流側の静圧が−120 Pa、下流側が−180 Paだったとします。
このとき、静圧差は、
−120 − (−180) = 60 Pa
です。
両地点の速度圧がほぼ同じで、間に排風機などのエネルギーを加える装置がなければ、この区間の全圧損失は約60 Paになります。
断面積が変わる場合には注意する
一方、途中でダクト径が変化すると、風速も変化する場合があります。
この場合、速度圧が変わるため、静圧差だけを圧力損失として扱えません。
全圧の関係から、
全圧損失 = 上流側全圧 − 下流側全圧
として評価する必要があります。
つまり、
ΔPt = (Ps1 + Pv1) − (Ps2 + Pv2)
です。
静圧の変化を見て異常を調べる際にも、風速やダクト径が変化していないか確認することが重要です。
4. 静圧はどこで測定するのか?
実際の局所排気装置では、測定する場所によって静圧が異なります。
例えば、2台のフードを1台の排風機へ接続した設備を考えます。
フードAとフードBから、それぞれ枝ダクトが伸びています。
2本の枝ダクトが合流し、主管を通って空気清浄装置へ入り、その後に排風機へ接続されています。
推奨する測定位置
| 測定点 | 位置 | 主な目的 |
|---|---|---|
| P1 | フードA直後 | フードA側の運転状態確認 |
| P2 | フードB直後 | フードB側の運転状態確認 |
| P3 | 合流後の主管 | 枝ダクト合流後の状態確認 |
| P4 | 空気清浄装置の直前側 | 装置に流入する空気の圧力確認 |
| P5 | 空気清浄装置の直後側 | 装置を通過した後の圧力確認 |
| P6 | 排風機入口側 | 排風機吸込み側の状態確認 |
| P7 | 排風機出口側 | 排風機吐出し側の状態確認 |
※P4・P5は、空気清浄装置の直前・直後という機能上の区分です。実際の測定孔は、機器との接続形状や気流分布を考慮して設けます。
なぜ複数の場所で測定するのか?
例えば、P1からP3までの区間に異常がある場合、P1・P3の測定値と排風量を比較することで、枝ダクトA側に問題がある可能性を検討できます。
また、P4とP5を比較すれば、空気清浄装置を通過する際の圧力変化を確認できます。
P6とP7では、排風機前後の圧力状態を確認できます。
ただし、P6とP7の静圧差は、排風機静圧や排風機全圧と必ずしも同じ値ではありません。
排風機の性能評価では、速度圧や測定断面の条件なども確認する必要があります。
測定孔の位置が重要になる
静圧測定では、エルボの直後や急激な断面変化の近くなど、気流が大きく乱れる場所を避けることが基本です。
また、測定孔の内部に突起やバリがある場合、測定値に影響する可能性があります。
測定位置は、設備構造と適切な測定方法を考慮して決めます。

5. 静圧を測定するために必要な測定器
静圧測定には、圧力の差を測定できる機器を使用します。
代表的なものには、次のような測定器があります。
| 測定器 | 主な用途 |
|---|---|
| U字管マノメーター | 液面差から圧力差を求める |
| 傾斜管マノメーター | 比較的小さな圧力差を読み取る |
| デジタル微差圧計 | 静圧や差圧を数値で測定する |
| 静圧測定用プローブ | ダクト内の静圧を取り出す |
| ピトー管 | 全圧と静圧の測定、速度圧の算出 |
風速計と静圧計を区別する
例えば、風速の測定に使用できる熱式風速計です。
ただし、一般的な熱線風速測定用プローブをダクトの中へ入れただけでは、静圧を正しく測定できません。
静圧の測定では、圧力測定に対応した機器を使用する必要があります。
風速と静圧の両方を測定できる構成であっても、測定する項目に応じて適切な機能を選ぶことが重要です。
静圧を測定するときの注意点
最初に、使用する差圧計が対象圧力を測定できるか確認します。
次に、ゼロ点と接続方法を確認します。
例えば、周囲の空気を基準としてダクト内静圧を測定する場合には、差圧計の圧力取出口を正しく接続する必要があります。
接続を逆にすると、測定値の符号が反対になる場合があります。
また、測定用チューブの折れ、詰まり、漏れなども測定誤差の原因になります。
測定孔を開放したままにすると、吸込み側では空気漏れの原因になるため、測定後は適切に密閉します。

6. 正常時と比較するときに、なぜ測定条件をそろえる必要があるのか?
静圧測定を異常調査に利用する場合、最も重要なのは比較条件です。
例えば、完成時にはフード2台を使用していたのに、現在は1台だけ運転している場合を考えます。
この場合、ダクト系統を流れる風量が変化するため、静圧も変わります。
したがって、単純に測定値だけを比較して、異常と判断することはできません。
比較する際に確認する条件
| 項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 測定位置 | 同じ位置で測定しているか |
| 圧力の基準 | 同じ室内圧・大気圧基準で比較しているか |
| フード | 開口状態、サッシ高さ、使用台数 |
| ダンパー | 開度、固定状態 |
| 排風機 | 回転数、インバータ周波数 |
| 空気清浄装置 | 使用状態、清掃・交換状態 |
| 給気 | 給気設備、扉・窓の状態 |
| ダクト | 改造、清掃、修理の有無 |
| 空気条件 | 温度、密度など |
| 測定器 | 校正状態、測定範囲、接続方法 |
静圧が同じでも正常とは限らない
例えば、正常時も現在も−250 Paだったとします。
しかし、正常時には12 m³/min流れていたのに、現在は8 m³/minしか流れていない場合、設備の運転状態は変化しています。
静圧の値が一致しているからといって、吸引性能も同じであるとは限りません。
したがって、静圧は排風量などと組み合わせて評価する必要があります。
7. まず排風量を確認する|静圧診断の基本手順
静圧の変化を調べる際には、排風量の測定が重要になります。
排風量Qは、ダクト断面積Aと断面平均風速Vavgから求められます。
Q = 60 × A × Vavg
- Q:排風量(m³/min)
- A:断面積(m²)
- Vavg:断面平均風速(m/s)
計算例①|内径200 mmのダクト
内径200 mmのダクトで、平均風速が6.37 m/sだったとします。
断面積は、
A = π × 0.20² ÷ 4
A ≒ 0.03142 m²
です。
したがって、
Q = 60 × 0.03142 × 6.37
Q ≒ 12.01 m³/min
となります。
この場合、約12 m³/minの空気が流れていると判断できます。
現在の風速が4.25 m/sだった場合
同じダクトで平均風速が4.25 m/sだったとします。
Q = 60 × 0.03142 × 4.25
Q ≒ 8.01 m³/min
となります。
正常時と比較すると、排風量が約33%減少しています。
このような場合、単に静圧が変化したかどうかだけでなく、なぜ排風量が減ったのかを調べる必要があります。
なお、平均風速は、適切な測定断面で複数点を測定するなどして求めます。
ダクト内の1点だけの風速を、そのまま断面平均風速として扱ってはいけません。
8. ダクトの詰まりを静圧測定でどう調べるのか?
ここからは、具体的な異常調査を考えます。
最初は、ダクトの内部に粉じんが堆積している場合です。
ダクトが詰まるとどうなるのか?
ダクト内部に粉じんが堆積すると、空気の流れに対する抵抗が増加する場合があります。
その結果、同じ排風機の運転条件では、排風量が減少する可能性があります。
ただし、圧力がどのように変化するかは、詰まっている場所や測定位置によって異なります。
例えば、閉塞箇所の上流側と下流側では、異なる圧力変化が現れる場合があります。
そのため、「詰まっていれば静圧が必ず大きくなる」と一律に判断してはいけません。
同じ風量で比較できる場合の計算例
まず、ダクトのある区間について、正常時に次の測定結果が得られていたとします。
- 上流側静圧:−120 Pa
- 下流側静圧:−180 Pa
両地点は同じ断面積の水平なダクトにあり、途中に排風機などはなく、速度圧の差を無視できるものとします。
この場合、区間の圧力損失は、
ΔP = −120 − (−180)
ΔP = 60 Pa
となります。
次に、同じ風量を維持した状態で、次の測定結果が得られたとします。
- 上流側静圧:−120 Pa
- 下流側静圧:−270 Pa
この場合、
ΔP = −120 − (−270)
ΔP = 150 Pa
です。
つまり、この区間の圧力損失が、
60 Pa → 150 Pa
へ増加しています。
差は、
150 − 60 = 90 Pa
です。
同じ風量で比較できる条件で、特定区間の圧力損失が増加している場合、その区間に追加の流路抵抗が生じている可能性があります。
例えば、粉じんの堆積、ダンパーの開度変化、ダクトの変形などが考えられます。
実際には風量も変化する
ここで注意が必要です。
今回の計算では、風量が同じであると仮定しています。
しかし、実際の設備では、ダクトが詰まると排風量も変化することがあります。
そのため、正常時と異常時の圧力差をそのまま比較して、抵抗が何Pa増加したかを求めることはできない場合があります。
特に、排風機の回転数が一定でも、系統抵抗の変化によって運転点が変わります。
このため、実務では静圧と排風量を同時に確認します。

9. 空気清浄装置の目詰まりを静圧測定で調べる
次に、フィルター式の空気清浄装置を考えます。
フィルターに粉じんが蓄積すると、空気が通過する際の抵抗が大きくなる場合があります。
このような場合には、フィルターの前後で圧力を測定すると、状態を把握しやすくなります。
計算例②|フィルター前後の静圧差
ある空気清浄装置の正常時の測定結果を、次のように仮定します。
| 測定位置 | 正常時 |
|---|---|
| フィルター上流側 | −180 Pa |
| フィルター下流側 | −270 Pa |
両測定断面の速度圧がほぼ同じであれば、圧力損失は、
ΔP = −180 − (−270)
ΔP = 90 Pa
となります。
次に、同じ風量を維持した状態で、次の結果が得られたとします。
| 測定位置 | 現在 |
|---|---|
| フィルター上流側 | −185 Pa |
| フィルター下流側 | −365 Pa |
現在の圧力差は、
ΔP = −185 − (−365)
ΔP = 180 Pa
となります。
結果を比較する
| 項目 | 正常時 | 現在 |
|---|---|---|
| フィルター前後の圧力損失 | 90 Pa | 180 Pa |
| 増加量 | — | 90 Pa |
この結果から、同じ風量で比較したときに、フィルター部分の圧力損失が大きくなったことが分かります。
このような場合には、フィルターの目詰まりなどを疑うことができます。
ただし、測定孔の位置が異なる場合や、測定断面の速度圧が異なる場合には、全圧を考慮する必要があります。
また、実際の排風量を維持するためにインバータが自動的に回転数を上げていた場合、排風機の運転条件も変化している可能性があります。
何を確認するのか?
圧力損失が大きくなった場合には、次の事項を確認します。
- フィルターの堆積・目詰まり
- フィルターの取付状態
- 空気清浄装置内部の閉塞
- 測定孔や測定用チューブの詰まり
- 排風量や排風機の運転条件
必要な清掃や交換を実施した場合には、改善後の圧力損失と排風量を再確認します。

10. ダクトの空気漏れは、静圧で分かるのか?
次に、ダクトからの空気漏れを考えます。
ここでは、排風機の吸込み側にあるダクトを想定します。
このようなダクトに穴や隙間があると、外部の空気がダクト内部へ流入する場合があります。
漏れ込みが発生すると何が起こるのか?
例えば、フードで吸引した空気が8 m³/minだったとします。
その下流にダクトの空気漏れがあり、外部から3 m³/minの空気が流入している場合を考えます。
この場合、漏れ部分より下流では、
8 + 3 = 11 m³/min
の空気が流れることになります。
| 測定位置 | 風量 |
|---|---|
| 漏れ部分の上流側 | 8 m³/min |
| 漏れ部分の下流側 | 11 m³/min |
| 差 | 3 m³/min |
このように、上流側と下流側の風量を比較することで、途中から空気が流入している可能性を検討できます。
ただし、この計算では、途中にほかの分岐や流入箇所がなく、空気密度の差を無視できることを仮定しています。
静圧だけで漏れ箇所を特定できるのか?
難しい場合があります。
空気漏れによって流量配分や圧力分布が変化しますが、その変化は漏れ位置や系統全体の抵抗によって異なります。
そのため、静圧の変化だけで空気漏れを断定してはいけません。
空気漏れの確認方法
例えば、次の方法があります。
- ダクトの接続部や腐食箇所を目視確認する。
- 適切なスモークテスターなどを使用し、外部から空気が吸い込まれていないか確認する。
- 必要に応じてダクト内部の風量を比較する。
- 静圧を測定し、正常時との違いを調べる。
厚生労働省の定期自主検査指針にも、スモークテスター等を利用してダクト接続部の空気の流入・漏出を確認する方法が示されています。
なお、可燃性雰囲気や有害物質が存在する場合には、気流可視化方法の安全性を事前に確認する必要があります。

11. 排風機の性能低下は、静圧測定で分かるのか?
次に、排風機の性能が低下した場合を考えます。
例えば、次のような原因が考えられます。
- 羽根車への汚れの付着
- 羽根車の摩耗・腐食
- ベルトの滑り
- 排風機回転数の低下
- インバータの設定変更
- 電動機や駆動系の異常
これらによって排風機が発生できる圧力が変化すると、ダクト系統の運転点も変化する場合があります。
排風機の性能低下をどう調べるか?
まず、排風機の回転数を確認します。
例えば、設計回転数が1,500 min⁻¹だったのに、現在は1,200 min⁻¹で運転していたとします。
この場合、回転数が80%になっています。
ファン法則では、同じファンで相似な運転条件が成立する場合、風量は回転数に比例し、圧力は回転数の二乗に比例します。
したがって、説明用の概算では、
風量比 = 0.8
圧力比 = 0.8² = 0.64
となります。
しかし、実際の運転風量はファン性能曲線と系統抵抗曲線の交点で決まります。
そのため、ファン法則だけで現在の風量を確定することはできません。
静圧の測定だけでは不十分
例えば、排風機入口の静圧が正常時の−400 Paから現在−300 Paへ変化したとします。
この結果だけでは、排風機の能力不足と断定できません。
なぜなら、排風機が正常でも、フードやダクト、空気清浄装置の抵抗条件が変われば、入口静圧が変化する場合があるためです。
何を組み合わせて判断するのか?
| 確認事項 | 主な目的 |
|---|---|
| 排風機回転数 | 設計条件との比較 |
| 排風量 | 実際の運転風量の確認 |
| 排風機入口・出口圧力 | 排風機による圧力上昇の評価 |
| ファン性能曲線 | 運転点との比較 |
| 電流・振動・異常音 | 機械・電気的な異常の確認 |
| ダクト・フィルターの状態 | 系統抵抗の変化の確認 |
排風機の全圧を評価する場合には、入口・出口の全圧差を用います。
必要に応じて速度圧も求め、メーカーの性能曲線に対応した条件で比較します。
排風機不良を疑う場合には、単に静圧が低下したかどうかではなく、排風量・回転数・圧力上昇の組合せを確認することが重要です。
12. 静圧・排風量の変化から原因を絞り込む早見表
ここまでの内容を整理します。
次の表は、異常調査を始める際の参考例です。
| 観察された状態 | 疑う原因 | 追加で確認すること |
|---|---|---|
| 排風量が低下し、ある区間の抵抗増加が疑われる | ダクトの閉塞、ダンパーの絞り | 区間前後の圧力、堆積、開度 |
| フィルター前後の損失が増加 | フィルター目詰まり | 同じ風量での差圧、内部状態 |
| 下流側の風量が上流側より大きい | ダクトへの空気漏れ込み | 接続部、点検口、漏れ位置 |
| 排風量が低下し、回転数も低下 | ベルトの滑り、回転数設定異常など | 回転計、インバータ、駆動装置 |
| 排風量が低下し、回転数は正常 | 系統抵抗増加、ファン性能低下など | 圧力分布、ファン性能曲線 |
| 主管風量は正常だが一部フードが不足 | 枝ダクトの流量配分不良 | 各枝の風量、ダンパー |
| 静圧・風量とも正常に近いが捕捉不良 | フード配置、外乱気流など | 制御風速、実作業、気流の可視化 |
ここで重要なのは、この表が異常原因を断定するためのものではないことです。
例えば、排風量が低下していても、静圧の変化が必ず同じ方向に現れるわけではありません。
静圧・排風量・回転数・設備状態を組み合わせ、複数の可能性を順番に確認するための早見表として使用してください。
13. 実務例|静圧測定から不具合を調査する
ここでは、架空の化学工場で使用している局所排気装置を考えます。
2台のフードを1台の排風機へ接続した設備です。
設備の構成は次のとおりです。
- フードA:作業台Aの有害物質を吸引
- フードB:作業台Bの有害物質を吸引
- 枝ダクトA・B:各フードの空気を搬送
- 主管:2本の枝ダクトからの空気が合流
- 空気清浄装置:捕捉した有害物質を処理
- 排風機:空気を屋外へ排出する流れを形成
正常時の測定記録
完成時には、次の結果が記録されていました。
| 項目 | 正常時 |
|---|---|
| フードA風量 | 7.2 m³/min |
| フードB風量 | 4.8 m³/min |
| 主管風量 | 12.0 m³/min |
| 排風機回転数 | 1,500 min⁻¹ |
ある日、フードBの吸引が弱くなったという報告がありました。
ステップ① 各フードの風量を測定する
まず、各枝の排風量を確認しました。
| 項目 | 正常時 | 現在 |
|---|---|---|
| フードA | 7.2 m³/min | 7.0 m³/min |
| フードB | 4.8 m³/min | 3.0 m³/min |
| 合計 | 12.0 m³/min | 10.0 m³/min |
フードBで風量が大きく低下しています。
このことから、枝ダクトB側に問題がある可能性を考えます。
ただし、排風機の能力低下や主管側の抵抗増加などの可能性も残っています。
ステップ② 静圧測定値を比較する
次に、完成時の測定記録と現在の静圧を比較します。
| 測定点 | 正常時 | 現在 |
|---|---|---|
| P1:フードA直後 | −120 Pa | −115 Pa |
| P2:フードB直後 | −140 Pa | −110 Pa |
| P3:合流後の主管 | −250 Pa | −270 Pa |
| P6:排風機入口 | −400 Pa | −430 Pa |
※架空の説明用測定値です。これらの値は流量・運転条件を含む実設備モデルから算出したものではなく、数値の大小関係だけで故障箇所を確定することはできません。
ステップ③ 原因の候補を絞り込む
測定結果を見ると、フードBの風量低下が特に大きく、枝ダクトBと主管の圧力状態にも変化が見られます。
そこで、枝ダクトBのダンパーや内部の閉塞などを重点的に調べることにします。
ただし、静圧だけで原因を断定するのではなく、ダクトの形状や実際の排風量も確認します。
ステップ④ ダクト内部を確認する
安全な方法で設備を停止・隔離したうえで、点検口から枝ダクトBの内部を確認したところ、エルボ付近に堆積物が見つかったとします。
この時点で、堆積物が吸引不足に寄与している可能性が高くなります。
ステップ⑤ 改善後に再測定する
堆積物を安全に除去した後、排風機を再起動して性能を確認します。
例えば、フードBの排風量が4.8 m³/minへ回復した場合、堆積物の除去が風量改善に寄与したことを確認できます。
さらに、所定位置の制御風速など、適用される性能要件を満たしていることを確認します。
なぜ原因が分かった後も再測定が必要なのか?
例えば、ダクト内部の堆積物を除去しても、別の位置に空気漏れがあれば、必要な排風量が得られない可能性があります。
また、風量が回復しても、フードの位置や外乱気流によって捕捉性能が不足する場合があります。
そのため、原因を改善した後には、必要な性能が回復したことを確認する必要があります。

14. 静圧測定を使った異常調査の実務手順
ここまでの内容を、実際の調査手順として整理します。
ステップ① 作業者へのばく露の危険性を確認する
吸引能力の不足によって有害物質が作業者の呼吸域へ流入している場合などは、必要な保護措置を優先します。
状況によっては、対象作業を一時停止することも検討します。
ステップ② 正常時の測定記録を確認する
完成時や過去の定期自主検査の記録を確認します。
測定位置、風量、静圧、排風機回転数などを整理します。
ステップ③ 現在の運転条件を確認する
フードの使用状態、ダンパー開度、排風機回転数、空調・給気の状態などを確認します。
ステップ④ 制御風速や排風量を確認する
必要な性能が得られているか確認します。
複数のフードがある場合には、各フードの性能を確認します。
ステップ⑤ 静圧を測定する
正常時と同じ位置で静圧を測定します。
異なる位置の圧力差を見る場合には、測定断面や速度圧の違いも考慮します。
ステップ⑥ 異常箇所の候補を絞り込む
風量と圧力の変化から、ダクト、空気清浄装置、排風機などのどこを重点的に調べるか決めます。
ステップ⑦ 現物を確認する
必要な安全措置を講じ、閉塞、空気漏れ、ダンパーの異常、フィルター目詰まり、排風機の異常などを確認します。
ステップ⑧ 改善・再測定を行う
原因に対応した改善を行い、改善後の性能を確認します。
最後に、原因、対策、測定結果を記録します。

15. 正常時の静圧記録を残すことが重要な理由
静圧測定の結果を異常調査へ活用するには、比較対象となる正常時の記録が必要です。
例えば、ある装置の静圧が−300 Paだったとしても、正常時の値が分からなければ、その数値だけで異常とは判断できません。
しかし、正常時の値が−200 Paだったと記録されていれば、何らかの変化が生じた可能性を検討できます。
完成時に記録しておきたい項目
| 分類 | 記録事項 |
|---|---|
| 設備情報 | 設備名、管理番号、系統図 |
| 測定 | 測定日、測定者、測定器 |
| 圧力 | 測定位置、静圧の符号付き数値 |
| 風量 | 各フード・各枝ダクトの風量 |
| 排風機 | 回転数、インバータ周波数 |
| ダンパー | 開度、固定状態 |
| フード | 開口寸法、設置状態 |
| 空気清浄装置 | 圧力損失、使用状態 |
| 作業条件 | 使用フード数、給気・空調状態 |
| 判定 | 設計値との比較、必要な性能 |
| 改善 | 不具合、対策、再測定結果 |
この記録は、完成時だけでなく、定期自主検査や設備改造後の性能確認にも活用できます。
設計値と実測値のどちらを基準にするのか?
設計値は、設備がどのような性能を持つべきかを示すものです。
一方、正常時の実測値は、実際にその設備がどのような状態で運転していたかを示すものです。
そのため、両方を保存しておくことを推奨します。
ただし、過去の実測値が必ず正しい性能を示しているとは限りません。
例えば、完成時から必要な制御風速が不足していた場合、そのときの測定値を正常な基準として使用することは適切ではありません。
まず、法令上の性能要件や設計上の必要性能が満たされていることを確認し、その状態での静圧を維持管理の基準とすることが重要です。
16. 法令では静圧測定をどのように扱っているのか?
ここでは、日本の労働安全衛生関係法令と厚生労働省の検査指針を区別して整理します。
有機溶剤中毒予防規則第20条
同条では、対象となる局所排気装置について、原則として1年以内ごとに1回の定期自主検査が規定されています。
検査項目には、フード・ダクト・ファンの損傷、じんあいの堆積、ダクト接続部の緩み、吸気・排気能力などがあります。
第21条:定期自主検査の記録
同条では、定期自主検査の年月日、方法、箇所、結果、実施者の氏名、補修等の措置を講じた場合の内容などを記録し、3年間保存することが規定されています。
第22条:初回使用時等の点検
対象となる局所排気装置を初めて使用するとき、または分解して改造・修理したときには、所定の事項を点検することが規定されています。
第23条:異常が認められた場合の補修
所定の自主検査や点検で異常を認めた場合には、直ちに補修しなければならないことが規定されています。
厚生労働省「局所排気装置の定期自主検査指針」
同指針では、ダクト内部の堆積や接続部の異常などを調べる方法として、静圧測定が示されています。
例えば、ダクト内部の堆積を調べる際、所定の方法で直接確認できない場合などに、測定孔を利用して静圧を測定する方法が示されています。
また、判定基準の一つとして、測定した静圧が設計値と著しく異ならないことが挙げられています。
静圧を定期的に測定することは一律の法的義務なのか?
ここは区別が必要です。
有機溶剤中毒予防規則第20条では定期自主検査の実施が義務付けられていますが、すべての対象設備について、毎回すべての測定孔で静圧を測定することを同条が直接規定しているわけではありません。
静圧測定は、検査指針に示された方法の一つであり、設備の構造や確認したい項目に応じて使用します。
一方、設備の性能を継続的に把握するために静圧の推移を記録することは、実務上有用な管理方法です。
法令上の検査義務と、組織が任意で行う予防保全のための静圧監視は、区別して扱う必要があります。
17. 経験者が特に注意したい8つのポイント
① 負圧の符号を取り違えない
−200 Paから−350 Paへの変化は、符号付きの静圧値が低下し、負圧の絶対値が増加した状態です。
② 同じ測定位置で比較する
エルボやダンパーの近くでは、気流分布の影響を受ける可能性があります。
測定位置を記録し、可能な限り再現します。
③ 排風量を確認する
静圧の変化だけでは、系統抵抗の変化と風量の変化を区別できない場合があります。
④ 静圧差を圧力損失と混同しない
断面積や風速が異なる場合には、速度圧の影響を考慮する必要があります。
⑤ 排風機の回転数を確認する
回転数が変化すれば、ファン性能曲線と運転点も変わります。
⑥ 複数の枝ダクトを個別に評価する
主管の測定値だけでは、一部のフードで発生している吸引不足を見落とす可能性があります。
⑦ 静圧の変化だけで故障箇所を断定しない
静圧は原因を絞り込むための情報です。
必要に応じて排風量、差圧、目視点検、気流の可視化などを組み合わせます。
⑧ 異常の修理後には性能を確認する
部品を交換したり、堆積物を除去したりしただけでは、局所排気装置の性能が回復したとは限りません。
所定の制御風速など、必要な性能を確認する必要があります。
18. 静圧による異常調査チェックリスト
| 確認事項 | 確認 |
|---|---|
| 適用される法令・性能要件を確認した | □ |
| 有害物質へのばく露防止措置を確認した | □ |
| 正常時の静圧記録を準備した | □ |
| 正常時の排風量記録を準備した | □ |
| 測定位置を図面で確認した | □ |
| 測定器の校正・ゼロ点を確認した | □ |
| 測定孔・チューブの状態を確認した | □ |
| フードの使用条件を確認した | □ |
| ダンパー開度を確認した | □ |
| 排風機の回転数を確認した | □ |
| 各フードの風量・制御風速を確認した | □ |
| 静圧を符号付きで記録した | □ |
| 必要に応じて区間の圧力差を確認した | □ |
| ダクトの堆積・閉塞を確認した | □ |
| ダクト接続部の空気漏れを確認した | □ |
| 空気清浄装置の抵抗を確認した | □ |
| 排風機の運転状態を確認した | □ |
| 異常原因に対応した改善を行った | □ |
| 改善後の性能を再測定した | □ |
| 測定結果・原因・対策を記録した | □ |
このチェックリストは異常調査の実務に使用するための提案であり、すべての項目が一律に法的義務となるものではありません。
よくある質問
Q1. 吸込みダクトの静圧が−200 Paから−350 Paになりました。異常ですか?
何らかの運転条件の変化が生じた可能性があります。
ただし、測定位置や排風量、排風機回転数などによって静圧は変わるため、この数値だけで異常と断定することはできません。
Q2. 負圧が大きくなった場合、ダクトが詰まっているということですか?
必ずしもそうではありません。
詰まりの位置や、測定している場所によって静圧の変化は異なります。
排風量なども確認する必要があります。
Q3. 静圧が正常時と同じなら、局所排気装置は正常ですか?
静圧が同じでも排風量や捕捉性能が変化している可能性があります。
必要な制御風速などを確認する必要があります。
Q4. フィルターの目詰まりは静圧で分かりますか?
前後の圧力差を測定することで、目詰まりによる抵抗増加を把握できる場合があります。
ただし、風量や測定断面の条件をそろえて比較することが重要です。
Q5. ダクトの空気漏れは、静圧だけで特定できますか?
難しい場合があります。
静圧に加えて、ダクトの上流・下流の風量、目視点検、適切な気流可視化方法などを組み合わせることが重要です。
Q6. 排風機入口の静圧が低下したら、排風機の故障ですか?
排風機の性能低下の可能性はありますが、ダクト系統の抵抗変化や排風量の変化などでも同様の現象が生じる場合があります。
回転数やファン性能曲線、風量などを確認する必要があります。
Q7. 静圧の測定は毎月行う必要がありますか?
すべての局所排気装置について、毎月の静圧測定が一律に義務付けられているわけではありません。
法令上必要となる点検・定期自主検査を確認したうえで、設備の重要度や性能変化のリスクに応じて、組織として静圧の測定頻度を設定する方法が考えられます。
まとめ|静圧は単独で判断せず、風量と組み合わせて異常を調べる
局所排気装置の静圧測定は、設備の状態を確認するための有用な方法です。
特に、正常時の静圧を記録しておけば、その後の性能変化を調べる際の手掛かりになります。
しかし、静圧の変化だけでダクトの詰まり、空気漏れ、排風機の故障などを断定することはできません。
排風量、ダンパー開度、排風機回転数、空気清浄装置の状態などを組み合わせて評価する必要があります。
また、静圧は負圧で表されることがあるため、符号付きの値と負圧の絶対値を区別することが重要です。
そして、設備の不具合を修理した後には、必要な制御風速や排風量などが確保されているか確認しなければなりません。
静圧測定の本当の目的は、数値の変化を見つけることではありません。正常時との違いから原因を絞り込み、適切な改善につなげることです。
この考え方を理解することで、局所排気装置の性能低下を早期に発見し、より根拠のある維持管理や設備改善ができるようになります。
次回は、静圧測定を含めた局所排気装置の日常点検・定期自主検査の進め方と、性能を維持するための記録管理について解説します。
主な参考資料
- 『やさしい作業環境改善技術』第18章「工事完成時の点検と性能が出ない場合の対策」、特に図18・1および図18・2
- e-Gov法令検索「有機溶剤中毒予防規則」
- 厚生労働省「局所排気装置の定期自主検査指針」等の周知等について
- 米国OSHA Technical Manual, Section III, Chapter 3:Ventilation Investigation
※OSHAの資料は、静圧測定、風量測定、局所排気装置の性能調査についての海外の技術的参考資料です。日本国内の法的義務を示すものではありません。
※本文中の静圧・風量の数値は、調査方法を理解するための仮定例です。実際の設備の測定結果や故障診断を示すものではありません。
※静圧測定で異常が疑われる場合でも、作業者へのばく露防止と適用法令上の性能確保を優先し、必要な安全措置を講じたうえで点検・修理を行ってください。


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