【第2回】有害物質対策は換気から考えてよい?対策の優先順位を解説

化学物質や粉じんを扱う作業場で、作業者のばく露を減らすために局所排気装置を設置することがあります。

しかし、有害物質の対策を検討するとき、最初から換気装置の設置を考えることが本当に適切なのでしょうか。

例えば、粉じんが発生する作業に大きな局所排気装置を設置する場合でも、そもそも粉じんが発生しない作業方法に変更できれば、別の解決方法が見つかるかもしれません。

有害物質対策では、換気を最初の選択肢と決めるのではなく、危険源をなくす方法や、より危険性・有害性の低い方法への変更を先に検討することが基本です。

これは、局所排気装置が重要ではないという意味ではありません。局所排気装置は有効な工学的対策の一つですが、それだけに頼らず、発散源から対策を考えることが重要なのです。

この記事では、法令上の要求事項を確認したうえで、対策の優先順位と、それぞれの特徴を具体的な作業例で解説します。

目次

有害物質対策はなぜ換気から考えてはいけないのか?

換気設備は、すでに発生した有害物質を空気の流れによって捕らえたり、希釈したりする設備です。

つまり、換気設備は、基本的に有害物質が発生することを前提とした対策です。

一方、有害物質の使用や発散をなくすことができれば、その発散源からのばく露を根本的に減らせる可能性があります。

例えば、粉体原料を袋から手作業で投入する工程について考えてみましょう。

投入時に粉じんが発生する場合、局所排気装置を設置して粉じんを捕らえることができます。

しかし、原料の供給方法を変更し、密閉された配管などを通じて投入できるようになれば、開放状態で原料を投入する機会そのものを減らせます。

このように、発生した有害物質を捕らえるだけでなく、有害物質が作業場に発散する原因を減らすことも検討する必要があります。

ただし、密閉化や自動化にも点検時のばく露、設備内部の残留物、圧力、閉塞などの新たなリスクがあります。設備を密閉化しただけで、すべてのリスクがなくなるわけではありません。

有害物質対策の優先順位とは?

化学物質のリスクアセスメントでは、法令で定められた措置を実施することを前提に、可能な限り優先順位の高い対策を検討します。

厚生労働省の化学物質リスクアセスメント指針では、物質の代替や工程条件の変更、工学的対策、管理的対策、保護具の使用といった順序で検討することが示されています。

ここでは、その考え方を初学者にも理解しやすいように、一般的な管理策の優先順位として5段階に整理します。

  1. 危険源の除去:危険な作業や有害物質の使用自体をなくす
  2. 危険性・有害性の低いものへの代替:物質や工程を変更する
  3. 工学的対策:密閉化、局所排気装置などによってばく露を減らす
  4. 管理的対策:作業方法、手順、立入管理などを改善する
  5. 個人用保護具:適切な保護具によって労働者を保護する

なお、この5段階は対策を理解するための整理です。厚生労働省の化学物質リスクアセスメント指針では、代替や工程条件の変更等をまとめて扱うなど、区分の仕方が一部異なります。

また、法律によって特定の措置が義務付けられている場合には、この優先順位を理由に法定措置を省略することはできません。

① 危険源の除去|有害物質を使う作業そのものをなくす

最も根本的な対策は、危険源を取り除くことです。

例えば、ある工程で有害物質を使った手作業の洗浄を行っていた場合、その洗浄工程自体をなくせないか検討します。

洗浄しなくても品質が確保できる製造方法へ変更できれば、その工程で有害物質を使用する必要がなくなるかもしれません。

ただし、工程をなくした結果、別の工程で新たな危険が生じないか確認することも重要です。

② 代替|より危険性・有害性の低い物質や方法に変更する

有害物質を使用する作業をなくせない場合には、より危険性・有害性の低いものに変更できないか検討します。

例えば、揮発性の高い溶剤を使用する工程について、品質などの条件を満たす別の材料に変更できる可能性があります。

また、粉体原料を粒状にすることで、投入時の粉じん発生を減らせる場合もあります。

ただし、代替品が必ず安全とは限りません。

化学物質を代替する場合には、吸入有害性だけでなく、皮膚への影響、引火性、反応性なども確認する必要があります。

特に、発散する量が減ったとしても、新しい物質の有害性が高くなる場合には、総合的なリスクが低下するとは限りません。

③ 工学的対策|設備や構造によってばく露を減らす

危険源の除去や代替だけでは十分に対応できない場合には、設備によって有害物質の発散やばく露を減らす方法を検討します。

代表的な対策には、次のようなものがあります。

  • 発散源となる設備の密閉化
  • 有害物質の発散を抑えるための囲い込み
  • 局所排気装置の設置
  • 適切な方式による換気設備の設置
  • 発散源と作業者を隔離する設備

これらの対策の特徴は、作業者が毎回特別な操作をしなくても、設備の構造や機能によってばく露を低減できる場合があることです。

ただし、設備が正常に作動することが前提です。故障、誤操作、保守不良、設計条件からの逸脱などがあれば、十分な効果が得られない場合があります。

密閉化と局所排気装置はどう使い分ける?

密閉化は、有害物質が作業場へ出てこないよう、発散源を設備の内部に閉じ込める方法です。

局所排気は、発生した有害物質を、周囲へ広がる前に吸引する方法です。

どちらも工学的対策ですが、作用する場所と方法が異なります。

例えば、密閉された設備で原料を取り扱っていても、原料の投入時や製品の取出し時には一時的に開放する必要があるかもしれません。

そのような場合には、密閉化だけでなく、開放箇所に局所排気装置を設けるなど、複数の対策を組み合わせることが考えられます。

④ 管理的対策|作業方法や管理方法を改善する

管理的対策は、作業手順や作業条件、労働者の行動などを管理する方法です。

例えば、粉じんが発生する作業で、原料の投入速度を管理したり、作業者が発散源の風下に立たないようにしたりする方法が考えられます。

また、有害物質を取り扱う作業区域への立入りを制限することも管理的対策の一つです。

管理的対策は重要ですが、手順の遵守や教育、日常的な管理に依存する面があります。

したがって、設備で低減できるリスクについては、作業者の注意だけに頼らない方法も検討することが大切です。

⑤ 個人用保護具|残るリスクから労働者を守る

呼吸用保護具、化学防護手袋、保護眼鏡などは、労働者を有害物質から守るために使用します。

ただし、保護具を着用するだけでは、作業場の空気中に存在する有害物質そのものが減るわけではありません。

例えば、呼吸用保護具は、適切な種類を選定し、正しく使用することによって、吸入ばく露を低減するためのものです。

また、呼吸用保護具によって、皮膚への接触や吸収を防止することはできません。

したがって、有害物質の性質とばく露経路に応じて、必要な保護具を選ぶことが重要です。

保護具が必要な作業では、他の対策の完成を待つことなく適切な保護具を使用する必要がある場合もあります。優先順位が低いということは、保護具の重要性が低いという意味ではありません。

法令で換気設備などが義務付けられている場合はどうする?

ここは、管理策の優先順位と明確に区別する必要があります。

例えば、有機溶剤中毒予防規則や特定化学物質障害予防規則などによって、作業内容や対象物質に応じた設備・措置が義務付けられている場合があります。

これらの法令が適用される場合には、リスクアセスメントで別の対策が有効と判断されても、それだけを理由に法定措置を省略することはできません。

ただし、法令に認められた例外や代替措置の条件を満たす場合などは、その規定に従って判断します。

また、リスクアセスメント対象物については、労働安全衛生規則第577条の2に基づき、労働者のばく露の程度を最小限度とすることや、対象物質のうち濃度基準値が設定されたものについて、所定の条件下で濃度基準値以下とすることが求められます。

ここで重要なのは、特定の設備を設置する義務と、ばく露の程度を低減する義務は、確認する内容が異なるという点です。

例えば、局所排気装置を設置する義務がある作業では、適用される構造・性能等の要求事項を確認する必要があります。

それと同時に、装置が実際に作業者のばく露を減らせているかという技術的な評価も重要です。

実務例|粉体原料の投入作業を改善する

ここでは、ある化学工場で袋に入った粉体原料を混合機に投入する作業を想定します。

作業者は、原料袋を開封し、投入口から粉体を流し込んでいます。

投入時に粉じんが発生し、作業者の顔の周囲にも粉じんが流れてくる状況です。

この作業について、いきなり大きな局所排気装置を設置するのではなく、対策の優先順位に沿って検討します。

対策の段階この作業で検討する内容
危険源の除去開封・手投入工程をなくせないか
代替発じんしにくい原料形状に変更できないか
工学的対策密閉投入設備や局所排気装置を設けられないか
管理的対策投入速度、作業位置、清掃方法などを改善できないか
個人用保護具残留リスクに応じた保護具を適切に使用できているか

例えば、原料を専用の密閉容器で供給できるのであれば、原料袋を開封する工程を減らせるかもしれません。

これが難しい場合には、混合機の投入口を囲い、粉じんが漏れにくい構造にすることを検討します。

さらに、必要に応じて囲いの内部を局所排気することで、開放部からの粉じんの漏れを減らす方法が考えられます。

一方、投入作業の都合で大きな開口部が必要な場合には、フード形状や排風量、周囲の気流などを慎重に検討する必要があります。

このように、複数の方法を比較することで、作業性や設備費だけでなく、発生源からのばく露防止効果も踏まえた対策を検討できます。

※これは対策の考え方を説明するための架空事例です。実際の改善効果や法令適合を示すものではありません。

経験者が注意したい3つのポイント

1. 設備を導入したことと、リスクが十分に低減したことは違う

局所排気装置を設置しただけでは、対策が完了したとはいえません。

フードの位置や排風量が適切でも、実際の作業動作によって有害物質が漏れ出す場合があります。

設置後は、必要な性能確認に加えて、通常作業や非定常作業でのばく露状況を確認することが重要です。

2. 一つの対策で新しいリスクを生じさせない

工程や使用物質を変更すると、これまでになかったリスクが発生することがあります。

例えば、粉体原料を液状に変更した場合、粉じんの発生は減っても、液体の飛散や皮膚接触のリスクが生じるかもしれません。

代替を検討するときは、変更前と変更後の危険性・有害性、ばく露経路、作業条件を比較する必要があります。

3. 対策の優先順位と、実施の順番は必ずしも同じではない

根本的な対策ほど優先して検討することが基本ですが、実施に時間がかかる場合もあります。

例えば、密閉設備の新設に数か月かかる場合、必要な措置を何も講じずに完成を待つことは適切ではありません。

リスクの大きさに応じて、作業方法の変更、立入制限、適切な保護具の使用など、直ちに実施可能な暫定措置を検討する必要があります。

ただし、暫定措置によって法令上の義務が免除されるわけではありません。

現場ではどのような順序で検討すればよいのか?

実際の現場で対策を検討するときは、次の流れが有効です。

ステップ1:対象物質と作業内容を確認する

SDSなどから危険性・有害性を確認するとともに、実際の作業方法、発散源、発散量、ばく露経路を把握します。

ステップ2:適用法令と必要な措置を確認する

対象物質と作業内容に適用される法令を確認し、実施が義務付けられている措置を明確にします。

ステップ3:根本的な対策を検討する

作業の廃止、物質の代替、工程条件の変更などによって、危険源やばく露を減らせないか検討します。

ステップ4:工学的対策を検討する

密閉化、囲い込み、局所排気装置などの対策を、実際の作業条件に合わせて比較します。

ステップ5:管理的対策と保護具を検討する

残留リスクに対して必要な作業管理を定め、適切な保護具を選定します。

ステップ6:対策の効果を確認する

設備の性能、作業者のばく露、作業性、新たなリスクなどを確認し、必要に応じて改善します。

よくある質問

Q1. 有害物質が発生する作業では、必ず局所排気装置を設置する必要がありますか?

すべての作業で必ず設置するわけではありません。

対象物質や作業内容に応じて適用法令を確認し、求められる措置を実施する必要があります。法令上の設置義務がない場合でも、リスクアセスメントの結果に応じて局所排気装置が必要になることがあります。

Q2. 換気よりも密閉化を優先すべきですか?

有害物質の発散を根本的に抑えられるのであれば、密閉化が有利な場合があります。

ただし、密閉化後の原料投入、清掃、点検、保守作業などのリスクも確認する必要があります。

Q3. 呼吸用保護具を使用していれば換気設備は不要ですか?

保護具を使用することだけで、換気設備などの法定義務がなくなるわけではありません。

また、保護具が適切に選定・使用されていても、有害物質の発散自体を抑える対策とは役割が異なります。

Q4. 危険性・有害性の低い物質へ変更すれば、ほかの対策は不要ですか?

必ずしもそうではありません。

代替後の物質についても危険性・有害性や実際のばく露状況を確認し、残るリスクに応じた対策を検討します。

Q5. 対策の効果は何で確認すればよいですか?

対策の種類によって確認方法は異なります。

例えば、局所排気装置では設備の性能確認が必要となる場合があります。また、労働者のばく露の程度を把握するために、必要に応じて適切な測定や評価を行います。

法令上の適合確認と実際のばく露低減効果の評価は、目的を区別して実施することが重要です。

まとめ|換気は重要だが、最初から換気だけに限定しない

有害物質対策を検討するときは、局所排気装置の設置だけを最初から前提にするのではなく、危険源の除去や代替など、より根本的な対策を検討することが重要です。

そのうえで、密閉化や局所排気装置などの工学的対策を組み合わせ、残るリスクに対して管理的対策や個人用保護具を使用します。

ただし、法令によって定められた措置は別途確実に実施する必要があります。

重要なのは、どの設備を設置するかではなく、どのような方法で有害物質へのばく露を低減できるかを考えることです。

局所排気装置の設計を学ぶ場合にも、まずその考え方を理解しておくことが、適切な換気設備を選定するための出発点になります。

主な参考資料

※本記事の5段階の分類は、管理策の基本的な考え方を理解するための整理です。各法令による設置義務・性能要件・適用除外等の条件を置き換えるものではありません。

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この記事を書いた人

労働衛生コンサルタント。製造現場で約10年、環境安全部門で約20年、合計約30年の実務経験があります。化学物質管理、作業環境管理、局所排気、ISO45001及び安全衛生教育を中心に、現場で実行・継続できる仕組みづくりを支援しています。

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