「ISO 45001ができる前にも、OHSAS 18001があったのに、なぜ新しい規格が必要だったのだろう」
ISO 45001を学び始めると、この疑問を持つ人は少なくありません。
結論からいうと、ISO 45001は、OHSAS 18001を否定して作られた規格ではありません。
OHSAS 18001などで蓄積された安全衛生マネジメントの考え方を土台にしながら、世界各国の参加による国際規格として、組織の状況、トップマネジメントのリーダーシップ、働く人の協議及び参加、経営との一体化などを、より明確にした規格です。 (ISO)45001は、世界中の職場へ同じ作業手順を強制する「世界共通の法律」ではありません。

国や地域の法令を守ったうえで、安全衛生を継続的に管理するための国際共通の枠組みです。
────────────────────────────
📚 ISO45001完全実務ガイド
📍現在地:基礎理解編(3/6)
✓ 第1回 ISO45001とは何か
✓ 第2回 ISO45001はなぜ必要なのか
● 第3回 ISO45001が生まれた背景 ← 今回
○ 第4回 ISO45001の全体像
────────────────────────────
この記事を読むと分かること
この記事では、次の内容を初心者向けに解説します。
- ISO 45001が作られた背景
- OHSAS 18001の役割と位置づけ
- OHSAS 18001からISO 45001へ引き継がれた考え方
- ISO 45001で強く打ち出された考え方
- Annex SLと他のISOマネジメントシステム規格との関係
【最初に押さえる結論】
ISO 45001が必要になった理由は、「昔の安全管理がすべて間違っていたから」ではありません。
世界規模で事業やサプライチェーンがつながる中で、安全衛生を組織全体の経営と結びつけ、国や業種を越えて共有できる国際的なマネジメントの枠組みが求められたためです。

世界共通で必要だったのは「同じ作業ルール」ではなく「共通の管理の枠組み」
「世界共通の安全ルール」という言葉から、世界中の工場や建設現場が、まったく同じ作業手順や保護具の基準を使う姿を想像するかもしれません。
しかし、ISO 45001はそのような規格ではありません。
各国の労働安全衛生法令や、業種ごとの技術基準を置き換えるものでもありません。
ISO 45001が示すのは、組織が次のような活動を、どのように仕組みとして管理するかという枠組みです。
- 危険源を特定する
- 労働安全衛生リスクを評価する
- 法的要求事項などを把握する
- 目標と計画を定める
- 必要な対策を実施する
- 働く人と協議し、参加できるようにする
- 結果を評価し、改善を続ける
ISO 45001は、規模や業種を問わず利用できる国際規格です。
また、ISO 45001を導入した組織が認証を受けるかどうかは任意です。認証取得自体が、規格を活用するための必須条件というわけではありません。 (ISO)な安全衛生マネジメント規格が求められたのか
国際規格が求められた背景には、労働災害と仕事による健康障害が世界共通の課題であることに加え、複数の組織や国が関係して事業を進める時代になったことがあります。
労働災害と職業性疾病は世界共通の課題だった
労働災害や仕事による健康障害は、特定の国や業種だけの問題ではありません。
国際労働機関(ILO)は、仕事に関連する要因によって、世界で年間約293万人が死亡していると推計しています。
このうち多くは、事故ではなく、仕事に関連する疾病による死亡です。 (国際労働機関)るのは、安全衛生では目の前の事故だけでなく、長期間のばく露、作業環境、働き方、設備、組織の管理なども含めて考える必要があるということです。
一つの組織だけで仕事が完結しにくくなった
現在の事業活動では、設計、調達、製造、物流、据付け、保守などを、複数の組織が分担することが珍しくありません。
発注者、請負者、協力会社、派遣労働者、海外拠点などが関係するほど、安全衛生を一つの部署や一つの事業場だけで考えることは難しくなります。
そこで必要になったのが、個別の作業手順を世界で統一することではありません。
組織が安全衛生をどのように経営し、関係者と調整し、継続的に改善するかを共有できる枠組みです。
他のマネジメントシステムと一体で運用する必要が高まった
多くの組織では、品質、環境、安全衛生を別々の仕組みとして動かすと、会議、目標、監査、文書、責任者などが重複します。
ISOは、ISO 45001の開発理由の一つとして、ISO 9001やISO 14001など、他のISOマネジメントシステム規格と統合しやすい安全衛生規格が求められていたことを説明しています。 (ISO)界共通の管理の枠組みが必要になった理由】
OHSAS 18001とは何だったのか
OHSAS 18001は、ISO 45001が発行される前に、世界で広く利用されていた労働安全衛生マネジメントシステムの規格です。
初版は1999年に発行され、2007年に改訂版が発行されました。 (BSI Standards Development)001は、次のような安全衛生活動を体系的に進める基盤として、大きな役割を果たしました。
- 労働安全衛生方針を定める
- 危険源を特定する
- リスクを評価する
- 必要な管理策を実施する
- 目標を設定する
- 実施状況を確認する
- 不具合を是正する
- 継続的に改善する
重要なのは、OHSAS 18001が「失敗した規格」だったから、ISO 45001へ置き換えられたのではないという点です。
ISOも、ISO 45001はOHSAS 18001など、先行する安全衛生マネジメントの成果を基礎としていると説明しています。 (ISO)SAS 18001からISO 45001への変化は、すべてを一から作り直したというよりも、蓄積された考え方を国際規格として発展させたものと理解すると分かりやすくなります。
OHSAS 18001はISOの国際規格ではなかった
OHSAS 18001は世界中で利用されましたが、ISOが国際的な合意形成の手続を経て発行したISO規格ではありませんでした。
ISOの公式説明では、OHSAS 18001はISO 45001以前の英国規格として位置づけられています。 (ISO)国際機関などが参加し、ISOの仕組みで国際規格を作ることには、より幅広い国と地域で利用できる共通基盤を形成する意味がありました。

ISO 45001はOHSAS 18001の単純な改訂版ではない
ISO 45001は、2018年3月12日に発行されました。
ISOは、ISO 45001について、OHSAS 18001を参考にしながらも、単なる改訂や更新ではなく、新しく独立した規格であると説明しています。 (ISO)001の認証を受けていた組織には移行期間が設けられました。
新型コロナウイルス感染症の影響による延長を含め、認定された認証の移行期間は2021年に終了しています。 (ISO)「以前は何もなかったが、ISO 45001で初めて導入された」と単純に整理すると、誤解を招きます。
OHSAS 18001にも、経営者の責任、危険源の特定、リスク評価、管理、監視、改善などの考え方はありました。
ISO 45001では、それらを組織の状況や経営プロセスとの関係を含め、より強く、より明確に位置づけた点が重要です。
| 比較する視点 | OHSAS 18001 | ISO 45001 |
|---|---|---|
| 規格の位置づけ | 世界で広く利用されたOHSAS規格 | ISOが発行した国際規格 |
| 組織の状況 | 主に安全衛生上の危険源や内部管理を中心に構成 | 内外の課題や利害関係者も考慮 |
| トップマネジメント | 経営者の責任を規定 | リーダーシップと経営への統合をより重視 |
| 働く人 | 協議や参加に関する仕組みを含む | 協議及び参加をより明確に重視 |
| 他規格との統合 | 統合運用は可能 | 共通構造により統合しやすい |
| 計画の視点 | 危険源と労働安全衛生リスクを中心に管理 | マネジメントシステムに関するリスク及び機会も考慮 |

ISOが示す主な相違点にも、リーダーシップの強化、組織の状況とリスクベース思考の追加、他のISOマネジメントシステム規格との整合、パフォーマンス改善の重視が挙げられています。 (ISO)HSAS18001とISO45001の違い】
ISO 45001で強く打ち出された四つの考え方
ISO 45001では、従来の安全衛生マネジメントを受け継ぎながら、特に次の四つの考え方が強く打ち出されました。
1.組織の状況から考える
ISO 45001では、現場にある危険だけを見るのではありません。
組織を取り巻く内外の課題、働く人やその他の利害関係者のニーズ及び期待、マネジメントシステムの適用範囲などを踏まえて、安全衛生の仕組みを構築します。
例えば、次のような変化は安全衛生へ影響する可能性があります。
- 人手不足
- 設備の老朽化
- 請負作業の増加
- 新しい技術の導入
- 原材料や製造方法の変更
- 事業拠点や組織体制の変更
この考え方によって、安全衛生を現場だけの問題ではなく、組織の置かれた状況と結びつけて考えやすくなりました。
2.トップマネジメントが自ら関与する
ISO 45001では、トップマネジメントが安全衛生を担当者へ任せきりにしないことが重視されています。
トップマネジメントには、方針、資源、役割、組織の方向性、事業プロセスとの統合などについて、リーダーシップを発揮することが求められます。
安全衛生担当者は、仕組みの構築や運用を支援できます。
しかし、設備投資、人員配置、生産計画、外部委託などの重要な判断は、安全衛生担当者だけでは決められません。
そのため、安全衛生を改善するには、経営判断と現場活動をつなぐ必要があります。ISOは、ISO 45001ではトップマネジメントの関与と、事業プロセスへの統合がより重視されたと説明しています。 (ISO)人の協議及び参加を重視する
ISO 45001では、働く人から意見を聞くだけでなく、安全衛生マネジメントシステムの計画、実施、評価、改善へ参加できるようにすることが重視されています。 (ISO)が持つ経験や気付きは、手順書や会議資料だけでは把握できないことがあります。
ただし、「参加」とは、働く人へ安全衛生上の責任を押しつけることではありません。
組織が必要な仕組み、時間、情報、教育などを整え、参加を妨げる障害を取り除いたうえで、働く人が実質的に関われるようにすることが重要です。
4.安全衛生を事業の仕組みに組み込む
ISO 45001では、安全衛生を年に一度の行事や、安全衛生部門だけの活動にしないことが重要です。
安全衛生を、次のような通常の事業活動へ組み込みます。
- 設計
- 調達
- 設備導入
- 作業変更
- 教育
- 請負管理
- 設備保全
- 評価
- 改善
例えば、新しい包装設備を導入する場合を考えてみましょう。
稼働後に安全衛生担当者が危険を指摘するだけでは、設備の大幅な改造が必要になる可能性があります。
設備の仕様を決める段階から、経営者、設備担当者、実際に使用する働く人、安全衛生担当者が関われば、危険箇所への接近を減らす設計、清掃しやすい構造、保守時の停止・隔離方法などを事前に検討できます。

「事故が起きてから対策する規格」から変わったのか
ここは誤解しやすい点です。
OHSAS 18001の時代には事故後の対応しか行っておらず、ISO 45001になって初めて予防が始まったわけではありません。
OHSAS 18001にも、危険源を特定し、リスクを評価し、事故や健康障害を予防する考え方がありました。
ISO 45001で強くなったのは、予防という考え方そのものを新しく発明したことではありません。
次の要素を、組織全体の仕組みとして結びつけた点です。
- 安全衛生を組織の状況と結びつける
- トップマネジメントの関与を明確にする
- 働く人の協議及び参加を重視する
- 安全衛生を事業プロセスへ統合する
- 労働安全衛生パフォーマンスの継続的改善を目指す
したがって、「事故後対応から予防へ変わった」とだけ説明するよりも、予防を組織全体の経営と日常業務へ組み込む方向が強まったと説明する方が正確です。

Annex SLとは何か
Annex SLは、ISO及びIECの規格作成ルールに含まれる、マネジメントシステム規格の整合性を高めるための枠組みです。
現在は「調和されたアプローチ」や「調和された構造」と説明され、共通の箇条構成、中核となる共通文章、共通の用語及び定義を用いる考え方が示されています。 (ISO)O 9001、ISO 14001、ISO 45001などを同時に運用する組織は、次のような項目を共通の流れで整理しやすくなります。
- 組織の状況
- リーダーシップ
- 計画
- 支援
- 運用
- パフォーマンス評価
- 改善
ただし、すべての規格の要求事項が同じになるわけではありません。
品質、環境、安全衛生には、それぞれ固有の要求事項があります。
Annex SLは、異なる規格を同じものにする仕組みではなく、共通部分をそろえて連携しやすくする仕組みです。 (ISO)nnex SLによる共通構造】

安全は「コスト」ではなく「投資」なのか
ISO 45001が、「安全対策を投資と呼ばなければならない」と直接要求しているわけではありません。
しかし、実務上は、安全衛生を単なる費用として見るのではなく、事業継続、人材の確保、設備の安定稼働、信用の維持などを支える経営上の取組みとして考えることが重要です。
事故や健康障害が発生すれば、働く人と家族への影響だけでなく、次のような影響が生じる可能性があります。
- 操業停止
- 原因調査
- 是正措置
- 納期の遅れ
- 取引先への影響
- 社会的信用への影響
これは規格本文の表現ではなく、ISO 45001を経営へ組み込む意味を理解するための実務上の考え方です。
よくある質問
Q1.OHSAS 18001の認証は現在も維持できますか
認定されたOHSAS 18001認証のISO 45001への移行期間は、2021年に終了しています。
現在、新たに労働安全衛生マネジメントシステムの認証を取得する場合は、ISO 45001が基本となります。 (ISO)HSAS 18001を知らなくてもISO 45001を学べますか
学べます。
OHSAS 18001の詳しい知識は必須ではありません。
ただし、OHSAS 18001から引き継いだ部分と、ISO 45001で強くなった部分を知ると、規格の意図を理解しやすくなります。
Q3.Annex SLを暗記する必要がありますか
初めてISO 45001を学ぶ人が、Annex SLの細部まで暗記する必要はありません。
まずは、「ISOのマネジメントシステム規格は、共通する構造で作られている」と理解すれば十分です。
Q4.ISO 45001の認証取得は法律上の義務ですか
一般に、ISO 45001の認証取得は任意です。 (ISO)、事業を行う国や地域で適用される労働安全衛生法令を守る義務があります。
また、取引条件として認証を求められる場合は、契約上の対応が必要になることがあります。
Q5.ISO 45001は大企業向けの規格ですか
いいえ。
ISO 45001は、組織の規模、業種、活動内容にかかわらず適用できるように作られています。 (ISO)、大企業と同じ量の文書や複雑な会議体を作るのではなく、組織の規模、複雑さ、リスクに応じた仕組みを構築することが重要です。
まとめ
ISO 45001が生まれた背景を、四つのポイントで整理します。
1.OHSAS 18001は重要な土台だった
OHSAS 18001は、安全衛生マネジメントの考え方を世界へ広げ、多くの組織が体系的な安全衛生活動へ取り組むための基盤となりました。
2.国際的な共通基盤が求められた
OHSAS 18001はISOの国際規格ではありませんでした。
そこで、世界各国の参加による国際規格として、より幅広い国、業種、規模の組織が利用できる共通基盤が作られました。
3.経営と現場のつながりが強化された
ISO 45001では、組織の状況、トップマネジメントのリーダーシップ、働く人の協議及び参加、事業プロセスへの統合が、より強く打ち出されました。
4.世界共通なのは管理の枠組みである
ISO 45001は、世界共通の法律や詳細な作業手順ではありません。
安全衛生を組織全体で管理し、評価し、継続的に改善するための国際共通の枠組みです。
OHSAS 18001からISO 45001への変化を、「古い規格が悪かったから作り直した」と考えるのは適切ではありません。
より正確には、これまでの安全衛生マネジメントの成果を受け継ぎながら、世界各国で使える国際規格へ発展させ、経営と現場をより強く結びつけたと理解するとよいでしょう。
次回予告
次回は、「第4回 ISO45001の全体像」です。
ISO 45001がどのような箇条で構成されているのか、PDCAと各箇条がどのようにつながっているのかを、初めて学ぶ人にも分かるように整理します。
主な参考資料
- ISO「ISO 45001:2018 公式規格情報」(ISO) 45001 is now published」 (ISO)st draft of ISO’s occupational health and safety standard now available」 (ISO) Directives, Part 1, Annex SL (ISO)ety and health at work」 (国際労働機関)AS 18001:1999」「OHSAS 18001:2007」 (BSI Standards Development)
- 第1回「ISO45001とは何か」
- 第2回「ISO45001はなぜ必要なのか」
- 第4回「ISO45001の全体像」
この記事は、ISO45001に関する一般的な情報提供を目的としています。個別の事業場における最終判断を代替するものではありません。実際の対応は、最新版の規格、適用法令、行政情報、社内ルール及び現場状況を確認し、必要に応じて管理者又は専門家の判断に基づいて行ってください。


コメント