ISO45001はなぜ必要なのか?事故が起きる前に会社を守る「仕組み」の考え方【第2回】

事故が起きる前に安全衛生を仕組みで管理する必要性を示す図

「何年も大きな事故が起きていないのだから、うちの会社は安全だろう」

そう考える人もいるかもしれません。

しかし、事故が起きていないことと、職場の危険を適切に管理できていることは同じではありません。

危険な状態があっても、作業者が経験によって避けていたり、偶然けがにつながらなかったりすることがあります。

また、騒音、化学物質、粉じん、身体への負担、過重な業務などによる健康への影響は、転倒や挟まれ事故のように、すぐには現れない場合があります。

ISO45001は、仕事に関係するけがや健康障害を予防し、安全で健康的な職場をつくるための労働安全衛生マネジメントシステム規格です。ISOの公式説明でも、労働安全衛生リスクを管理し、労働安全衛生パフォーマンスを継続的に改善するための枠組みとして説明されています。(ISO)

この記事では、なぜこのような仕組みが必要なのかを、初めてISO45001を学ぶ方にも分かるように説明します。

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ISO45001基礎理解編

現在地:基礎理解編(2/6)

✓ 第1回:ISO45001とは何か

● 第2回:ISO45001はなぜ必要なのか

○ 第3回:ISO45001が生まれた背景

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この記事を読むと分かること

  • ISO45001が必要とされる理由
  • 注意喚起だけでは事故を防ぎきれない理由
  • 法令遵守とISO45001の役割の違い
  • ISO45001によって安全衛生活動がどう変わるか
  • 認証を取得しなくても活用できる理由
目次

最初に押さえる結論

ISO45001が必要なのは、安全衛生を個人の注意、経験又は一部の担当者だけに任せず、会社の仕組みとして継続的に管理するためです。

ISO45001は、事故が完全になくなることを保証する規格ではありません。

危険源を見つけ、リスクを評価し、対策を実施し、その効果を確認して改善する。この流れを経営者、管理監督者、安全衛生担当者及び現場で働く人が関わりながら継続するための枠組みです。

事故がないことだけでは安全を判断できない

事故件数は、安全衛生の状態を確認するための重要な情報です。

しかし、事故がゼロだったという結果だけで、職場に危険がないとは判断できません。

例えば、事故が発生していなくても、次のような状態が残っている可能性があります。

  • フォークリフトと歩行者の動線が分離されていない
  • 機械の安全装置が正常に作動するか確認されていない
  • 化学物質の危険性や有害性が十分に把握されていない
  • 重量物を無理な姿勢で持ち上げている
  • 心身への強い負担が続いている
  • 設備や作業方法の変更後にリスクを見直していない

このような状態があっても、必ず直ちに事故や症状が現れるとは限りません。

特に、騒音、化学物質、粉じん、身体的負担などによる健康障害は、ばく露や負担が続いた後に明らかになることがあります。

そのため、安全衛生を管理するときは、発生した事故だけでなく、危険な状態、作業上の負担、設備の変化、点検結果、働く人からの意見なども確認する必要があります。

ヒヤリ・ハットも重要な情報ですが、報告が少ないことだけで「危険がない」と判断することはできません。報告しにくい職場では、危険な出来事が表面化していない可能性もあるからです。

ISO45001が必要なのは注意だけでは安全を守れないから

職場では、次のような言葉がよく使われます。

「十分に気を付けて作業してください」

「安全第一でお願いします」

注意を促すこと自体は必要です。

しかし、注意だけを対策の中心にしても、危険な状態そのものは残ります。

油漏れを注意喚起だけで管理する場合

通路に油が漏れている場面を考えてみましょう。

「滑らないように気を付けてください」という注意喚起だけでは、床の状態は変わりません。

作業者が油に気付かなかった場合や、運搬物によって足元が見えなかった場合には、転倒するおそれがあります。

必要なのは、注意喚起に加えて、次のような点を確認することです。

  • どこから油が漏れているのか
  • 漏れを止められないか
  • 漏れを早期に発見できるか
  • 清掃の担当者と実施方法が決まっているか
  • 受け皿や滑りにくい床材を使用できないか
  • 対策後も油漏れが再発していないか

対策を検討するときは、人の注意だけに頼るのではなく、危険な作業の廃止や変更、設備による対策、作業管理など、より確実にリスクを低減できる方法を先に検討することが重要です。個人用保護具は重要な対策ですが、設備的な対策などの代わりとして安易に選ぶものではありません。(あんぜんサイト)

ISO45001が目指すのは、単に「もっと注意して作業すること」ではありません。

人が一度間違えただけで、直ちに重大なけがや健康障害につながる状態を減らすことです。

法律を守ることとISO45001はどのような関係か

法律を守ることは、安全衛生管理の大前提です。

労働安全衛生法第1条は、危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進などによって、職場における労働者の安全と健康を確保することを目的としています。(e-Gov 法令検索)

ISO45001を導入しても、日本の法令上の義務が置き換えられたり、免除されたりするわけではありません。

ISO45001そのものは日本の法律ではない

ISO45001は国際的なマネジメントシステム規格であり、日本の労働安全衛生法令そのものではありません。

また、ISO45001の認証取得は、一般的な法令上の義務ではなく任意です。ISOも、マネジメントシステム規格への認証は必須ではなく、認証を受けずに規格を実施することができると説明しています。(ISO)

ただし、取引契約、発注条件、社内規程などでISO45001への適合や認証取得が求められる場合は、その契約上又は組織内の条件を別に確認する必要があります。

法令とISO45001はどちらか一方を選ぶものではない

法令とISO45001の主な役割は、次のように整理できます。

比較項目日本の安全衛生法令ISO45001
基本的な役割事業者が守るべき義務や基準を定める安全衛生活動を組織的に管理する枠組みを示す
具体的な対策設備、作業、教育、健康管理などについて具体的に定める場合がある個々の設備対策をすべて一律に定めるものではない
法令遵守法令の規定に従って実施する適用される法令等を把握し、遵守状況を管理する
認証法令遵守に認証は不要第三者認証を受けるかどうかは任意

厚生労働省の労働安全衛生マネジメントシステム指針も、安全衛生活動を体系的かつ継続的に実施する仕組みを示す一方で、機械、設備、化学物質などに関する個別の具体的措置そのものを定めるものではないとしています。

したがって、実際の対策を決めるときは、ISO45001だけを見るのではなく、次の情報を確認します。

  • 適用される法令、告示及び行政通達
  • 行政機関が公表している指針
  • 機械設備の取扱説明書及び安全仕様
  • 化学物質の安全データシート
  • リスクアセスメントの結果
  • 自社の設備、作業及び働く人の状況

法令に具体的な規定がある場合は、その規定を必ず守ったうえで、ISO45001の仕組みによって実施状況を管理します。

事故は一人の不注意だけで起きるとは限らない

事故が発生すると、次のように説明されることがあります。

「作業者が手順を守らなかった」

「確認が足りなかった」

作業者の行動が事故へ影響する場合はあります。

しかし、そこで調査を終えると、同じ事故を防ぐために必要な問題を見落とす可能性があります。

包装設備で材料が詰まった事例

包装設備で材料が詰まり、作業者が手を入れて負傷した場面を考えてみます。

確認すべきなのは、作業者の行動だけではありません。

  • 材料の詰まりが頻繁に発生する設備ではなかったか
  • 安全に詰まりを除去する方法が決められていたか
  • 機械を停止し、必要なエネルギーを遮断する方法が教育されていたか
  • 生産の遅れを避けるために作業を急いでいなかったか
  • 管理監督者が危険な方法を黙認していなかったか
  • 設備の不具合が報告されても放置されていなかったか

このような問題が重なっている場合、作業者を再教育するだけでは十分ではありません。

設備、作業手順、教育、監督、生産計画、異常報告、保全などを見直す必要があります。

ISO45001を活用する目的の一つは、事故を個人だけの問題として終わらせず、組織の管理方法に改善できる点がなかったかを確認することです。

ISO45001を取り入れると安全衛生活動はどう変わるのか

ISO45001を取り入れることで期待される大きな変化は、安全活動を一時的な対応ではなく、継続して運用する仕組みにできることです。

ISOの公式説明では、ISO45001の主な要素として、経営層の関与、働く人の参加、危険源の特定とリスク評価、法令遵守、緊急事態への備え、事故の調査及び継続的改善などが挙げられています。(ISO)

1.危険源を見つける

事故、ヒヤリ・ハット、点検結果、働く人からの意見、設備や作業の変更などから、けがや健康障害の原因になり得るものを把握します。

2.リスクを評価する

どのようなけがや健康障害につながるのか、どの程度のリスクがあるのかを確認します。

3.対策を決めて実施する

必要な対策、担当者、期限、予算、人員などを決めて実施します。

人の注意や個人用保護具だけに頼らず、危険な作業の廃止や変更、設備的な対策など、より優先順位の高い対策から検討します。(あんぜんサイト)

4.対策の効果を確認する

対策を実施した後に、本当にリスクが低減したかを確認します。

同時に、対策によって別の危険が生まれていないかも確認します。

5.仕組みを改善する

点検、監査、事故調査、法令改正、設備変更、働く人からの意見などを踏まえて、管理方法を見直します。

この繰返しが、労働安全衛生パフォーマンスの継続的改善につながります。

安全担当者だけでは仕組みを運用できない

ISO45001では、安全衛生を安全衛生担当者だけの仕事とは考えません。

経営層の関与と働く人の参加は、ISO45001の主要な要素です。(ISO)

実務上の役割は、次のように整理できます。

関係者実務上の主な役割
経営者・経営層安全衛生を経営課題として扱い、必要な人員、時間、設備及び予算を判断する
管理監督者現場で対策を実施し、異常や手順上の問題へ対応する
安全衛生担当者情報を整理し、活動を支援し、実施状況を確認する
働く人作業の実態、危険な状態、体への負担及び手順の問題を伝える
設備・保全・人事等の部門設備改善、人員配置、教育、労働時間など、それぞれの権限に応じて対応する

この表は、規格が各役職へ同じ名称で直接割り当てている要求事項ではなく、ISO45001を実際の組織で運用するための実務上の整理です。

厚生労働省の指針でも、労働者の協力の下で継続的に安全衛生活動を進めることや、安全衛生目標、計画、評価及び改善へ労働者の意見を反映する手順を定めることが示されています。

現場の危険を早く見つけられるのは、その場所で日常的に働いている人かもしれません。

そのため、危険を報告した人が責められる職場では、重要な情報が集まりません。

働く人が意見を伝えられ、組織がその内容を確認し、必要な対策へつなげる仕組みが必要です。

ISO45001によって期待できる5つの変化

ISO45001を実際の業務の中で運用することで、次のような変化が期待できます。

1.対応漏れを減らしやすくなる

誰が、何を、いつ確認するかを明確にすることで、担当者個人の経験や記憶だけに頼りにくくなります。

2.安全衛生活動を継続しやすくなる

事故が発生した直後だけ活動を強化するのではなく、計画、実施、確認及び改善を定期的に続けられます。

3.経営判断につなげやすくなる

設備改善、人員配置、教育、作業時間などについて、安全衛生上必要な情報を経営層へ示しやすくなります。

4.働く人の意見を反映しやすくなる

現場から集めた意見を記録し、検討し、対応結果を確認する流れを整えられます。

5.設備や作業の変更へ対応しやすくなる

新しい設備、材料、作業方法、人員体制などを変更する前に、リスクを確認する仕組みを整えられます。

ただし、ISO45001を導入しただけで、これらの効果が自動的に得られるわけではありません。

規程や記録を作成するだけでなく、実際の仕事の中で仕組みを機能させる必要があります。

ISO45001は中小企業にも活用できる

ISO45001は、大企業だけを対象とした規格ではありません。

ISOの公式説明では、組織の規模、業種、所在地及びリスクの程度にかかわらず適用できるとされています。(ISO)

ただし、中小企業が大企業と同じ人数、会議数、文書量で運用しなければならないという意味ではありません。

自社の規模、作業内容、危険の大きさ及び組織体制に合わせて、管理方法を設計することが重要です。

小規模な事業場では、まず次の4ステップから始める方法があります。

  1. 職場にある危険や健康への負担を現場で確認する
  2. 優先して改善する問題を決める
  3. 担当者と期限を決めて対策する
  4. 対策後の状態を確認して記録する

複雑な文書体系を先に作るのではなく、現在行っている安全衛生活動を整理し、不足している部分を補う方法が現実的です。

認証を取得しなくてもISO45001は活用できる

ISO45001の認証取得は任意です。

ISOは、マネジメントシステム規格について、認証を受けなくても導入による利益を得られると説明しています。ISO自身が組織を認証するのではなく、認証を希望する組織は外部の認証機関による審査を受けます。(ISO)

認証は、第三者が組織のマネジメントシステムを審査し、規格要求への適合を評価する仕組みです。

一方で、認証証書があることと、すべての危険がなくなり、将来の事故や健康障害が防止されることは同じではありません。

認証を取得する場合も、取得しない場合も、重要なのは次の状態をつくることです。

  • 危険源や健康への影響を把握できている
  • 必要な対策が実施されている
  • 働く人の意見が検討されている
  • 問題が放置されず改善されている
  • 経営者が必要な判断と資源提供を行っている

認証は目的そのものではなく、組織のマネジメントシステムを第三者が確認する方法の一つです。

よくある誤解

誤解1.事故が起きていない会社には必要ない

事故が起きていなくても、未対策の危険や、まだ症状が現れていない健康上の問題が残っている可能性があります。

事故件数だけでなく、設備、作業、健康への負担及び管理方法も確認する必要があります。

誤解2.法令を守っていればISO45001は不要である

法令遵守は大前提です。

ISO45001は、適用法令の把握と遵守状況の確認を含め、安全衛生活動全体を継続して管理するために使用します。

誤解3.安全衛生担当者が仕組みを作ればよい

安全衛生担当者だけでは、設備投資、予算、人員配置、生産計画などを決められない場合があります。

経営層、管理監督者、関係部門及び働く人の関与が必要です。

誤解4.認証を取得すれば事故は起きない

認証は、組織のマネジメントシステムが規格要求へ適合しているかを第三者が評価するものです。

将来の事故や健康障害が起きないことを保証するものではありません。

実務確認チェックリスト

自社の状況について確認してください。

  • □ 危険な状態や健康への負担を定期的に確認している
  • □ 事故だけでなく、ヒヤリ・ハットや働く人の意見も確認している
  • □ 設備や作業方法を変更する前にリスクを確認している
  • □ 自社に適用される安全衛生法令を把握している
  • □ 対策の担当者と期限を決めている
  • □ 対策後にリスクが低減したか確認している
  • □ 経営者が安全衛生上必要な資源を検討している
  • □ 働く人が危険や問題を報告しやすい
  • □ 問題が見つかったときに管理方法を見直している

チェックが付かなかった項目は、ISO45001を学びながら優先的に確認する候補です。

よくある質問

Q1.ISO45001を導入すれば事故はなくなりますか?

いいえ。

ISO45001は、事故が起きないことを保証する規格ではありません。危険源を把握し、リスクを低減し、改善を続けるための仕組みです。

Q2.小さな会社でも取り組めますか?

はい。

ISO45001は、組織の規模や業種を問わず活用できます。ただし、自社の規模、作業内容及びリスクに合った方法で運用することが重要です。(ISO)

Q3.認証を取得しなければ意味がありませんか?

いいえ。

認証を取得しなくても、ISO45001の考え方や要求事項を安全衛生活動へ取り入れることができます。(ISO)

Q4.法律とISO45001ではどちらを優先しますか?

日本の事業場では、適用される法令上の義務を必ず守ります。

ISO45001は、法令遵守を含む安全衛生活動を組織的かつ継続的に管理するための枠組みとして使用します。

Q5.ISO45001を始めるには、最初に何をすればよいですか?

現在の安全衛生活動と職場の危険を確認することから始めます。

すでに行っている点検、教育、リスクアセスメント、健康管理などを整理し、不足している管理を特定します。

まとめ

ISO45001が必要なのは、安全衛生を個人の注意や一部の担当者だけに任せず、会社の仕組みとして継続的に管理するためです。

事故が起きていないことだけでは、職場の危険が適切に管理されているとは判断できません。

法令上の具体的な義務を守ったうえで、危険源の特定、リスク評価、対策、効果確認及び改善を継続する必要があります。

ISO45001の認証取得は任意ですが、認証の有無にかかわらず、その考え方は中小企業を含むさまざまな組織で活用できます。

最初の一歩は、現在の職場にどのような危険や健康への負担があり、どのように管理されているかを確認することです。

次回は、ISO45001がどのような経緯で生まれたのかを説明します。

主な参考資料

  • 国際標準化機構「ISO 45001 explained」(ISO)
  • 国際標準化機構「ISO 45001:2018」公式規格紹介ページ(ISO)
  • 国際標準化機構「Management system standards」(ISO)
  • e-Gov法令検索「労働安全衛生法」(e-Gov 法令検索)
  • 厚生労働省「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針」
  • 厚生労働省「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針と解説」(厚生労働省)
  • 厚生労働省「職場のあんぜんサイト・リスクアセスメント情報」(あんぜんサイト)
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この記事を書いた人

労働衛生コンサルタント。製造現場で約10年、環境安全部門で約20年、合計約30年の実務経験があります。化学物質管理、作業環境管理、局所排気、ISO45001及び安全衛生教育を中心に、現場で実行・継続できる仕組みづくりを支援しています。

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